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翌日の放課後。校門を出ようとした隼人は、昇降口で大地が一人、靴を履き替えているのを見かけた。
普段なら誰かと一緒にいるはずなのに、その日は珍しく背中が丸まっている。
「……おーい」
声をかけると、大地は一瞬びくっとしてから、慌てていつもの笑顔を作った。
「お、隼人! なんだよ、待ち伏せ? 俺に会いたかった?」
「……お前さ、昨日のこと、あれ本気だったのか?」
「昨日?」
「“いなくても困らない”とか言っただろ」
大地は一瞬視線を逸らし、次の瞬間にはおどけて笑う。
「いやー、だって事実じゃん? 別に俺がいなくてもみんな元気だし」
「バカ」
隼人の声は、思わず低くなった。
「……俺は困る」
大地の笑顔が、固まった。
言葉に詰まり、ほんの数秒だけ無防備な素の顔を見せる。
「……なんだよ、それ」
「なんだよじゃねえよ」
隼人は大地の腕を軽く引き寄せるようにして、真正面から目を合わせた。
「俺は、お前がいないとムカつくし、落ち着かねえ。だから勝手にいなくなるとか、そういうこと二度と言うな」
廊下のざわめきの中、二人の間だけがやけに静かになる。
大地の胸がどくんと跳ねた。
冗談で返そうとした唇が震え、けれど声にならない。
その沈黙を埋めるように、隼人がふっと目を逸らし――
「……ったく、めんどくせーやつ」
といつもの調子に戻した。
大地はようやく笑みを浮かべたが、その笑顔は少し違っていた。
柔らかく、泣きそうで、どこか救われたみたいに。