テラーノベル
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放課後の空気は、いつもより重かった。
相談室と名のついた教室は、実際には空き教室で、机も椅子も寄せ集めだ。
「ここ、来るの初めて?」
窓際に腰かけていた蓮司が、スマホから顔を上げて言った。
声は軽い。警戒させない程度に。
「……二回目」
「一回目、何も起きなかった?」
「起きた」
「だよな」
それだけで、だいたい察したようだった。
相談者は椅子に座らず、立ったまま話し始める。
「先生に言ったらさ」
「うん」
「次の日から、全部変わった」
「空気?」
「視線」
「早いな」
「一瞬だった」
蓮司は頷く。
「“あいつ、言ったらしい”ってやつ?」
「そう」
「内容は?」
「どうでもいい」
「どうでもいい?」
「何言ったかじゃない」
相談者は、机の角を見つめた。
「言ったって事実だけでアウト」
「だな」
蓮司は否定しない。
「先生に相談=敵側」
「“チクった”扱い」
「クラスの外に持ち出した、ってやつ」
「そう」
相談者は苦く笑う。
「いじめてる側より」
「?」
「先生に言う側のほうが、
空気壊した人間になる」
「あるある」
蓮司は脚を組み替えた。
「で、先生は?」
「動いた」
「最悪」
「最悪」
二人の声が重なる。
「注意とか、話し合いとか」
「表向きは?」
「“解決”」
「裏は?」
「“誰が言ったか探し”」
蓮司は小さく息を吐いた。
「で、バレる」
「バレる」
「なぜ?」
「相談するやつ、他にいないから」
「だろうな」
相談者はようやく椅子に座った。
「それでさ」
「うん」
「先生に言った自分が、
一番居づらくなる」
「守られない?」
「されない」
「逆に?」
「距離置かれる」
「味方いなくなる」
「そう」
相談者は肩をすくめる。
「だから次からは、言わない」
「言えない、じゃなく?」
「言わない」
蓮司はそこを拾った。
「生き残る選択だな」
「でしょ」
「賢い」
「褒められても困る」
「褒めてない」
蓮司は淡々と言う。
「ただの事実」
少し間が空いた。
「なあ」
蓮司が言う。
「先生に相談した瞬間、
“裏切り者”になる環境ってさ」
「うん」
「もうその時点で」
「?」
「中、壊れてる」
相談者は、ゆっくり息を吐いた。
「でもさ」
「うん」
「壊れてるって言ったら、
“じゃあどうすればいい”ってなるじゃん」
「ならない」
「ならない?」
「俺は、ならない」
蓮司は軽く笑う。
「まずさ」
「なに」
「“言ったお前が悪い”って考え」
「……」
「それ、あっちの理屈」
「でも、実際そうなる」
「なるけど」
蓮司は言葉を切る。
「正しいかどうかは別」
相談者は黙った。
「相談したら孤立する」
「うん」
「だから相談しない」
「うん」
「そのルールで回ってる集団は」
「……」
「最初から、
誰も守る気ない」
相談者は、少しだけ目を伏せた。
「じゃあ俺、間違えた?」
「いや」
蓮司は即答する。
「一回、外に出ただけ」
「外?」
「内側のルールがクソだって、
確認しに行った」
相談者は小さく笑った。
「確認料、高すぎ」
「高い」
「払わなくてよかった?」
「払ったから、もう分かる」
「……何が」
「次は、守り方を選べる」
相談者は、少し考えてから言った。
「ここに来てるのも、
裏切り?」
「かもな」
「じゃあ俺」
「うん」
「裏切り者でいいわ」
蓮司は肩をすくめた。
「そのほうが」
「?」
「少なくとも、
自分は敵に回らない」
窓の外で、部活の声が響いた。
「帰る?」
「……もう少し、いる」
「どうぞ」
蓮司はスマホに視線を戻す。
「ここは、
まだ敵扱いされないから」
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