テラーノベル
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相談者は、今日は最初から椅子に座っていた。
机に肘をつき、指先を組んだまま動かない。
「なあ」
先に口を開いたのは相談者だった。
「味方ってさ」
「うん」
「作らない方が、安全なときあるよな」
蓮司は即答しない。
窓の外を一度見てから、軽く言った。
「ある」
「だよな」
相談者は笑わなかった。
「前さ」
「うん」
「クラスで一人、俺のこと気にしてくれるやつがいて」
「ほう」
「話しかけてくれた」
「それだけ?」
「それだけ」
蓮司は小さく頷く。
「で、何起きた」
「次の日、そいつが呼び出された」
「早いな」
「めちゃくちゃ早い」
相談者は、息を吐いた。
「“あいつと関わるな”って」
「ストレートだな」
「理由もちゃんと用意されてた」
「どんな」
「“目立つから”
“巻き込まれるから”
“お前のため”」
「親切の顔した脅し」
「そう」
相談者は続ける。
「で、そいつ」
「うん」
「俺に謝ってきた」
「謝る?」
「“ごめん、関われない”って」
蓮司は何も言わない。
「怒れなかった」
「だな」
「そいつが悪いわけじゃない」
「うん」
「悪いのは」
「?」
「味方になったら、次に狙われるって分かってる構造」
蓮司はそこで言った。
「連帯を罰する環境だな」
相談者は目を上げた。
「それ。一人なら我慢で済む」
「でも?」
「二人になると、危険」
「なんでだと思う?」
相談者は少し考えた。
「……増えるから?」
「何が」
「声」
「正解」
蓮司は淡々と続ける。
「一人の不満は“気のせい”で潰せる」
「うん」
「二人になると、現実になる。だから」
「?」
「繋がる前に切る」
相談者は苦笑した。
「効率いいよな」
「管理としてはな」
「でさ」
相談者は指を組み直す。
「それ以来、俺」
「うん」
「自分から距離取るようになった」
「優しいな」
「優しい?」
「誰も巻き込まないために、一人になる選択」
相談者は少しだけ視線を逸らした。
「でもさ」
「うん」
「それ、だんだん」
「?」
「自分が透明になる」
蓮司は頷く。
「あるあるだ」
「誰とも深くならない」
「表面だけ」
「話すけど、繋がらない」
「安全圏」
「でも」
相談者は声を落とす。
「味方がいない」
沈黙が落ちた。
「なあ」
蓮司が言う。
「味方作ると潰される環境でさ」
「うん」
「一番都合いいの、誰だと思う」
「……上のやつ」
「そう」
「逆に」
「?」
「一番削られるのは?」
相談者は、答えを分かっている顔で言った。
「一人で耐えるやつ」
「そう」
蓮司は椅子に背を預ける。
「孤立が“選択”に見えて
実際は、強制」
相談者は小さく笑った。
「俺、自分で選んでると思ってた」
「思わされてただけ」
「……そっか」
「味方作らないのは、弱さじゃない」
「じゃあ?」
「生存戦略」
相談者は少し楽そうな顔をした。
「でもさ」
「うん」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
蓮司はすぐには答えない。
「答え一個じゃない」
「逃げ?」
「あり」
「我慢?」
「なし」
「じゃあ」
蓮司は相談者を見る。
「味方の作り方を、隠す」
「隠す?」
「派手に繋がらない。
目立たない。
一対一」
「静かに?」
「そう」
相談者は、少し考えた。
「……スパイみたいだな」
「この手の環境では、割とそう」
相談者は息を吐いた。
「俺、味方欲しがるの、甘えだと思ってた」
「違う」
蓮司は言う。
「人として正常」
相談者は、しばらく黙ってから言った。
「じゃあさ」
「うん」
「ここでの俺らは?」
「?」
「味方?」
蓮司は軽く笑った。
「今のところはな」
「潰される?」
「目立たなきゃ」
「……了解」
相談者は立ち上がった。
「今日は」
「うん」
「一人じゃなかったってだけで、ちょっと楽」
「それでいい」
蓮司は手を振った。
「また来い」
「潰されない程度に」
ドアが閉まる。
廊下の音が戻ってきても、相談室の中だけは、静かだった。