テラーノベル
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教室の空気は濃密で、笑い声や紙を叩く音が絶え間なく響く。
「よーし、次は本当にリアルな話だな。昨日の夜のことより、もっと“重い”やつを頼むぜ」
誰かが紙に書いた文字が揺れ、挑発の合図となる。
「いや……そんな……」
遥は声を押し殺す。胸の奥で日下部の顔を思い浮かべる――あいつがもしここにいたら、また手を出されるかもしれない。
「さあ、もっと具体的に、言ってみろ」
クラスメイトの声が冷たく、期待に満ちている。
「……授業中……ローターを……入れられて……座らされて……動けなくて……」
一瞬の沈黙のあと、笑いとイライラが混ざった声が飛ぶ。
「は? それだけか? まだ弱すぎるだろ」
「もっと細かく! 体育でもされたんだろ?」
遥の顔は蒼白になる。口ごもるたびに、誰かが「日下部に何かあったらどうするんだ?」と匂わせ、冷たく脅す。
「体育では……バレないように……押さえつけられて……指示されたとおりに動かされて……走らされた……」
「お、いいぞ。でもまだ薄いな。文化祭や学校外での話も聞かせろ」
心臓が凍る。文化祭では、無理やり女装させられ、観客の前で歩かされたこと。
学校外では、クラスメイトに見せるために恥ずかしい格好を強制されたこと。
「……文化祭のとき……女装させられて……みんなに見られて……笑われて……」
「学校外でも……服を脱がされて……写真を撮られて……送られた……」
誰かが手を叩き、口笛を鳴らす。
「おいおい、まだ弱いぞ。もっと詳しく、どういう気持ちだったかも言えよ」
遥は言葉を詰まらせる。
(……もう限界だ……でも、日下部にあいつらの手を触れさせられない……)
「泣いた……恥ずかしかった……怖かった……でも、誰も助けてくれなかった……」
その言葉が教室に響き、誰かがイライラして紙を叩く。
「薄い、もっと見せろ。お前、まだ何も出し切ってないだろ?」
日下部のことを考えると、声を止められない。
手を出される恐怖と羞恥が絡み合い、遥は震えながらもすべてを吐き出す。
心の奥では、自分が壊されていること、利用されていることを痛感する。
しかしそれでも、日下部を守るために話すしかない。
教師は、密かに観察している。逃げられない空間で、加害の輪は完全にクラスと教師に支配されている。
遥の言葉一つひとつに、クラスメイトは笑い、イライラし、時には手を叩きながらさらに追い立てる。
「うーん、これで点数は稼げるな」
過去の痛みはすべて娯楽と化す。
しかし遥の目は、微かに日下部を思う光で揺れる――その光だけが、まだ壊れていない証だった。