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放課後。
空き教室。
日下部は机に開いた数学の問題集を眺めていた。
「終わりました?」
ドアを開けた相談者が聞く。
「一問目で止まってる」
「まだ一問目ですか」
「問題が俺を解いてる」
相談者が思わず笑う。
向かいの席に座る。
「今日は?」
相談者は少し黙る。
それから静かに話し始めた。
「俺、考えすぎるんです。一日中同じこと考えてたり、人に言われた一言を何回も思い返したり。『そんなに気にしなくていいじゃん』って言われても、止められなくて」
日下部は黙って聞く。
「友達は切り替え早いんです。嫌なことがあっても次の日には普通で。でも俺だけ、何日も引きずってる気がして」
少し間を置く。
「なんで俺だけなんだろうって思います」
教室が静かになる。
日下部が口を開く。
「考えるのって、やめようと思ってやめられる?」
相談者は苦笑する。
「無理です」
「だよな」
少し沈黙が流れる。
「考えすぎる人って」
日下部は言う。
「考えること自体が悪いと思い始める」
相談者は顔を上げる。
「……はい」
「でも」
少し間を置く。
「考える力と、苦しむことは別なんだ」
相談者は首を傾げる。
「同じじゃないんですか」
「同じじゃない」
日下部は続ける。
「考えることが悪いんじゃない。考え続けて、答えが出ない場所をぐるぐる回るから疲れる」
相談者は黙る。
「俺」
少し考える。
「答えが出るまで考えなきゃって思ってました」
「出ない問題もある」
短く返す。
「『あの時こう言えばよかったかな』とか、『嫌われたかな』とか」
少し間を置く。
「考えても、相手にしか分からないことまで考え始める」
相談者は苦笑した。
「それ、毎日やってます」
日下部は頷く。
「考えすぎる人って想像力がある人でもある」
相談者は少し驚く。
「え」
「いろんな可能性を思いつくから、不安も増える」
短く言う。
「だから、考えすぎる自分を消そうとするより」
少し間を置く。
「『ここから先は考えても分からない』って線を引く方が大事かもしれない」
相談者は静かに頷く。
「俺、ずっと答えのない問題を解こうとしてたんですね」
「真面目だからな」
日下部は少し笑う。
「でも、休憩も必要だ」
相談者も笑った。
「問題集より難しいですね」
「間違いない」
ドアが閉まる。
考えすぎることは、弱さではない。
ただ、答えのない問いまで背負い込むと、その優しさや真面目さが、自分を苦しめてしまうことがある。
#一次創作
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コメント
1件
日下部の「考える力と、苦しむことは別なんだ」って言葉、すごく刺さりました……。私もよく考えすぎてぐるぐるしちゃうタイプだから、「答えが出ない問題もある」って優しく線を引いてもらえた感じがして、読み終わった後ちょっと肩の力が抜けました。最後の地の文も含めて、すごく丁寧で温かい話でした。「問題が俺を解いてる」の脱力したジョークも好きです。素敵なエピソードをありがとうございます🤍