テラーノベル
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帰り道、電車に揺られながら沙夜は物思いに沈んでいた。
(司さんが私に一目惚れ? そんなはずないわ……)
そう否定しながらも、宇佐美が語った“あの日”の出来事が脳裏に浮かぶ。
その日は、いつも依頼している生花店のフラワーデザイナーが急遽来られなくなり、代わりに沙夜が花を活けることになった。
しかし、用意されたのはプロ仕様の花材ばかりで、沙夜は戸惑った。
スマホで花の特性を調べながら、少しでも長持ちするようにと神経を張り詰めて活けていた。
その間、入口から何組もの来客があったことは覚えている。
だが、一人ひとりの顔まで記憶している余裕はなかった。
(あの中に司さんがいたなんて……まったく気づかなかった)
もし宇佐美の言葉が本当なら、司はそのとき沙夜を見初め、見合い相手に指名したのだろうか。
だが、銀座で耳にした“結婚したい女性”が自分だとは限らない。
彼ほどの人物なら、見合い話などいくつでも舞い込んでいるはずだ。
たまたま目にした沙夜が、その候補の中で“一番まし”だっただけかもしれない。
司が本当に心を奪われた女性が別にいる可能性も否定できない。
(ああ……彼の心の中を覗けたらいいのに)
そのとき、バッグの中で携帯が震えた。
もちろん、独身時代に使っていたままの携帯だ。
画面を開くと、後輩の梨花からメッセージが届いていた。
【先輩、お疲れ様です! さっき三国さんに会ったら超上機嫌だったんですが、もしかして何かありました? 明日詳しく聞かせてくださいね~♡】
その文面を見た瞬間、沙夜はハッとした。
(そうだ……三国さんに返事をしないと)
怜央のことをすっかり忘れていた自分に気づく。
あれほど憧れていたはずなのに、今は彼のことをまったく考えていない。
(好きだと思っていたのに……不思議ね。今は司さんのことばかり気になってしまう)
現実世界では怜央に恋い焦がれていたはずなのに、今は司のことで心が占められている。
その事実に、沙夜は戸惑いを覚えた。
同時に、宇佐美から聞かされた“梨花が司の話をしてくれなかった件”が胸に引っかかる。
(どうして梨花ちゃんは、あの話を私にしてくれなかったの? 忘れたとは思えないけど……本当に忘れてたの?)
もし聞いていたなら、司を見る目は違っていたかもしれない。
見合いの場で「どうして私の名を?」と尋ねることもできただろう。
だが、梨花は何も言わなかった。
これまで素直で明るい後輩だと思っていた梨花が、急に不審に思えてくる。
隠れていた何かが、少しずつ姿を現し始めている――
沙夜はそんな感覚にとらわれた。
そこで、先日タクシー運転手に言われた言葉がよみがえる。
『目に見える表の部分だけで判断しないで、隠された部分に注目してみるといいですよ。案外、すぐに答えが見つかるかもしれません』
『その人の表立ったいいところばかりじゃなく、もっと奥にある“芯の部分”をね。そこを見つけられたら、真の幸せがつかめる気がしますから』
(まさか……ね……)
後輩を疑おうとする自分を戒めるように、沙夜は吊革をぎゅっと握りしめた。
その夜。
夕食と入浴を済ませた沙夜は、自室でノートパソコンを開いた。
現実世界では、司の予備知識もほとんどないまま見合いに挑んだ。
事前に梨花から聞かされたのは、司のスキャンダルの噂だけ――。
だが今は、彼についてもっと知りたいと思っていた。
検索すると、華々しい写真が次々と表示される。
子会社の上場セレモニー、株主総会での受け答え、経済界のパーティー、海外視察――
(これはドバイに行ったときの写真ね)
結婚直後に向かった出張先・ドバイでの姿もあった。
さらにスクロールすると、古い写真も続々と出てくる。
有名女優や人気モデルとの交際疑惑の密会写真まで。
夜の街を並んで歩く二人は、どう見ても恋人同士にしか見えない。
(そうよね……ハンサムな御曹司だもの。付き合った女性なんて、数えきれないほどいるわよね)
沙夜は深くため息をついた。
そして、仕事中の司の写真を改めて見返す。
未開発地域の視察では、司の後ろにライフルを持ったボディーガードが写っている。
かなり危険な場所なのだろう。
写真を眺めるうちに、胸の奥にある思いがじわりと広がっていく。
(私がマンションで子供みたいな不満ばかり抱えていたとき、彼は命がけで仕事をしていたのね……。それなのに私ったら……)
司に想いを寄せる女性がいようがいまいが、もうどうでもよかった。
自分の幼さが嫌になる。
仕事に情熱を注ぐ父の背中を見て育ったのに、同じく仕事に情熱を注ぐ司に対し、妻らしいことを何もしていない自分が腹立たしい。
後妻の美智子でさえ、父を支え、健康に気遣い、細やかなサポートをしていたのに――。
自分のふがいなさに、沙夜は胸が絞めつけられた。
しばらく物思いにふけったあと、喉が渇いた沙夜は気分が沈んだままキッチンへ向かう。
美智子は風呂に入っているようで、姿はなかった。
冷蔵庫を開けると、ドアポケットにりんごジュースのパックが入っているのに気づく。
その瞬間、ある記憶がよみがえった。
(りんごジュース……前の世界では、いつも冷蔵庫にあったわ。つわりでも飲みやすいから常備してたのよね……)
水のペットボトルを手にし、階段へ向かおうとしたそのとき、沙夜の足がふと止まった。
(りんごジュース……夜に切らしても、翌朝には必ず新しいのが入ってた。家政婦さんが帰ったあとだったのに……あれって、司さんが補充してくれてたの?)
その事実に気づき、沙夜は愕然とした。
司はいつも沙夜を気遣っていた。
それを恩着せがましく言うこともなく、ただ静かに、当たり前のように。
だから沙夜は気づかなかったのだ。
(あんなに忙しいのに、彼はできる範囲でいい夫になろうとしてくれていた。それなのに私は自分のことばかり……。彼の“芯の部分”なんて、まったく見えていなかった。最低だわ……)
情けなさに頬を涙が伝う。
それを拭いながら、沙夜は力なく階段を上がり、自室へ戻っていった。
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コメント
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角度の違う見方ができて気付きのある日でしたね✨️タクシー運転手さんの言葉もヒントになってますね👍️ でも沙夜ちゃんはそこまで自分を不甲斐なく思わなくても良いのに…皆自分のことでいっぱいいっぱいで当たり前🙂↕️思いつめないで🥺 梨花は真ーーーーーーーーーっ黒⚠️ 確定🤨 司さんは「むっつり」沙夜LOVE💕 かな?😆

マリコさん、どんどん引き込まれていきます。展開楽しみすぎます。
りんごジュースのエピソードにうるうる🥺✨️司さんなりに寄り添おうとしてたのかな…🥹 視点を変えたら、色んなことが見えてきた✨️沙夜ちゃんのこれからが良い方向へ変わっていく気がしてます😊 このタイムリープが幸せな未来に繋がりますように( *´꒳`*)🍀