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翌日の昼休み。
昨日のメッセージの通り、沙夜は社員食堂で後輩の梨花から質問攻めにあっていた。
「それで先輩、三国さんと何があったんですか?」
「何もないわよ。一緒にご飯を食べて帰っただけ」
「本当に? そのわりに三国さん、ずっとにこにこしてて、心ここにあらずって感じでしたけどね。でも、二人きりで食事に誘われたってことは、やっぱり先輩のこと好きなんですよ!」
「そんなことないわよ」
そう返した瞬間、沙夜はふと違和感を覚えた。
梨花はどうして“三国が沙夜に気がある”と、こんなにも強調するのだろう。
(もしかして……梨花ちゃんが三国さんのことを好きなの?)
その可能性は十分あり得た。
沙夜はさりげなく探りを入れてみることにする。
「梨花ちゃんは、どうして私に三国さんの話ばかりするの?」
予想外の質問だったのだろう。梨花は一瞬、ドキリとした表情を見せた。
「え? 私、三国さんの話ばかりしてますか?」
「うん。“三国さんは先輩に気がある”っていつも言うから、どうしてかなーって思って」
「そ、それは……特に理由なんてないですけど……」
「もしかして、梨花ちゃん、三国さんのこと気になってるんじゃない?」
「えっ……まさか、それはないです」
「そう? てっきりそうなのかなーって思ったんだけど……」
「違いますよ。そっ、それより、例のお見合いの話はどうなったんですか?」
梨花は慌てて話題を変えた。
その様子に、沙夜は不自然さを覚える。
(どうしてそんなに焦るの?)
そう思いながらも、無難に返した。
「うん。まだ具体的には決まってないんだけどね」
本当は司との見合いが決まっている。
だが、なぜか沙夜はそのことを梨花に話す気になれなかった。
現実世界では話していたが、ここではあえて伏せた。
「そっかあ。頭取令嬢だから、引く手あまたなんでしょうね~。羨ましい~。お見合い相手が決まったら教えてくださいね。私、リサーチしてあげますから」
「うん、ありがとう。そのときはよろしくね」
そう返しながら、沙夜は本題を切り出した。
「そういえば、前に、西園寺コンチェルンの御曹司がうちの銀行に来たらしいわね」
「あっ、はい。昨日も来てたって、女子行員たちが騒いでいましたよ」
梨花は食事を続けながら答えた。
「ちょうど昨日、宇佐美さんとエレベーターで一緒になって、西園寺司を見たって言ってたわ」
「わあ、至近距離で見たんですか?」
「そうみたい。でね、そのとき、宇佐美さんが言ってたんだけど……」
「はい?」
「前に、私がロビーで花を活けているとき、西園寺司さんが来たらしいの。私は全然気づかなかったんだけど……そのとき、彼が私の名前を確認していたって聞いて――そのこと、梨花ちゃん知ってた?」
「え?」
笑顔で昼食を食べていた梨花の表情が、急に曇った。
沙夜はその変化を見逃さなかった。
梨花は何も言えず、慌てて作り笑いを浮かべる。
「そのことをね、私に伝えるようにって宇佐美さんが梨花ちゃんに言ったらしいんだけど、私、聞いた覚えがなかったから……思わず聞いてませんって言っちゃったの」
沙夜の言葉に、梨花はさらにうろたえた。
「あ、ああ……なんか、そんなこと言われたような気がしますが……あれ? 私、先輩に言いませんでしたっけ?」
「ええ、聞いてないわ」
「私は言った覚えがあるんですけど……」
「そう? じゃあ、私がうっかり忘れてるだけかも」
「すみません。きちんと伝えたつもりだったんですけど……。今度から伝言はきちんと伝えるようにしますね」
「ううん、気にしないで。大したことじゃないし……」
沙夜は穏やかに微笑みながら食事を続けた。
視界の隅で梨花の表情を捉える。
笑ってはいるが、その奥には明らかな困惑が滲んでいた。
(何か隠してる……?)
直感で沙夜はそう感じた。
昼食を終えて席に戻った沙夜は、小さくため息をついた。
あちらの世界では見えなかったものが、こちらではほころびのように一つずつ姿を現していく。
それは、長年信頼してきた後輩を疑い始めるという、望まない現実を引き寄せていた。
(いかに自分がぼーっと生きていたか、思い知らされるわ)
自分の不甲斐なさに胸が沈みながら、沙夜は午後の仕事に集中した。
その日、仕事を終えた沙夜は、まっすぐ家に帰る気になれず、ターミナル駅近くのカフェに立ち寄った。
店の前の交差点には、帰路を急ぐ会社員や学生がせわしなく行き交う。
それは、あちらの世界でもよく見慣れた光景だった。
違う世界から飛び込んできたのは自分だけ。
そう思うと、孤独がじわりと押し寄せる。
いっそのこと、前の世界の記憶が消えてしまえば楽なのに――
けれど、どうしても消すことはできない。
(神様は私にどうしろというの? 中途半端な気持ちのまま、この世界で生きていけっていうの?)
そんな思いが胸を満たす。
そのとき、隣の席に座っている同年代の女性二人の会話が耳に入ってきた。
「そう。恋人と別れようとしていた女性が、急に過去に戻っちゃうの。そこで、出会いからやり直すの」
「へぇ、今流行りのタイムリープってやつか」
「うん」
「で、過去に戻った結果、その二人はどうなるの?」
「もちろんハッピーエンドだよ。女性が過去の行いを反省して、きちんと男性に向き合うようになるの。その結果、二人はまた愛し合うようになるんだ」
「そっかあ。そういうのいいよね~。私も観ようかな」
「うん、ぜひぜひ! あ~、私も過去に戻ってもう一度やり直したいな~」
「え? あんたにそんな相手いたっけ?」
「あ……いなかったか」
「「あははは」」
(やり直し……か。でも、司さんは私が見えていないのに、どうやってやり直すの?)
その瞬間、沙夜はハッとした。
「私のことが見えないのに、どうやってお見合いをするの?」
沙夜の胸の奥に、また新たな疑問が浮かび上がったのだった。
コメント
12件
自分の気持ちを見直すっていう事かしら。奥底に堪ってる言えなかった事あるかもね
梨花、何を隠してるのかな…🤔 司さん狙い?三国さん?それとも、可愛い後輩のふりして沙夜ちゃんを妬んでるだけとか…💦 沙夜ちゃんが梨花を少し警戒するようになって良かった😊⭕️ 司さんはクールを装ってるだけなのかも🤭💕 お見合いまだかな(っ ॑꒳ ॑c)
やっぱり梨花も司さんを狙ってるから、沙夜ちゃんに司さんを会わせたくなくて、強引に三国氏とくっつけようとしているよね…💦 女の嫉妬は怖いなあ…😰