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夕暮れの教室に、扉が軋む音が響いた。 誰もいないと思っていたのか、一瞬、来訪者の足が止まる。


「……入っていい?」


か細い声。

日下部が顔を上げると、扉の向こうに立っていたのは、髪の先まで神経質に整えられた少年だった。制服の裾を握る手が、微かに震えている。


「どうぞ。座って」


日下部が椅子を指すと、少年は警戒心を滲ませたまま、そろりと歩を進めた。まるで、物音ひとつで世界が崩れてしまうと信じているかのように。


――ああ、似てるな。遥に。


黙って席についた少年は、しばらく視線を彷徨わせてから、言葉を探すように口を開いた。


「……俺、怒られるのが、すごく怖いんです」


日下部は頷くだけで、言葉を促すような素振りも見せなかった。


「何かを間違えると、全部、自分のせいになる気がして……誰かが怒鳴ってると、それだけで、喉が詰まる。耳塞ぎたくなって……」


少年はうつむき、声を震わせる。


「なのに……俺も、怒る側に回ると、ちょっと安心するんです。自分が責められないから。……そうしないと、生きてる気がしないっていうか……最低だって思うんですけど」


日下部は、机の上に手を置き、ゆっくりと少年のほうへ視線を向けた。


「怖いまま、生きるのはしんどいよな」


少年は目を見開いた。肯定されるとは、思っていなかったのだろう。


「誰かの怒りに怯えるのと、誰かに怒りをぶつけて安心するのと。どっちもしんどい。でも……そうやって、怖いって言えるのは、少しすごいことだよ」


少年の喉がかすかに鳴る。


「遥ってやつがいる。今、お前とちょっと似た目をしてた。……怖いのに、誰にも言わなかった。怖くないふりして、全部、自分の中に閉じ込めて……でも、それで壊れかけてた」


「……その人、今は……?」


「まだ、迷ってる。だけど、たぶん――まだ壊れてない。言葉にできなかった分、ずっと戦ってる。ひとりで、たった一人で」


少年は静かに瞬きをした。その目が、少しだけ潤んでいる。


「お前が今ここで言えたことは、遥にはまだ言えないことかもしれない。……だから、俺はちゃんと聞くよ。怒られたくなかったって、お前の声、否定しない」


教室の外では、蝉の声が響いている。

まるで、その沈黙さえ、ひとつの赦しのようだった。


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