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無名の灯 恋愛編

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無名の灯 恋愛編

17 - 第17話 ただ触れた、それだけの夜

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2025年07月23日

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布団の上、息の詰まりそうな夜。蝉の声はもう鳴り止んでいて、窓の隙間から入り込んだ月光だけが、部屋を薄く照らしていた。


遥が、日下部のシャツに指をかける。

柔らかく笑って、でも目は笑っていない。


「……こうすりゃ、おまえも、満足?」


冗談みたいな言い方だった。

でもその手つきには、冗談では済まない迷いのなさがあった。


日下部は、ただ黙って遥の手を掴んだ。

拒絶でも、肯定でもない、曖昧な体温。


「……やめた方がいいと思う」


遥の動きが止まる。

表情は変わらないけど、眉の奥が少しだけ揺れた。


「なんで?」


声が乾いている。

挑発でもなく、好奇心でもなく――傷に触れられた時の、それ。


「……おまえ、そういうの、慣れてんだろ」

「でも、俺はさ……お前を抱くために、ここにいるわけじゃない」


遥は、目を逸らした。

笑うでも怒るでもなく、ただ虚空を見つめる。


「そういう“やさしさ”が、いちばんわかんねえんだよ」


かすかに震える声だった。

目の奥で何かが壊れそうに揺れていた。


「されるのが、当たり前だった。されないと、俺の価値がなくなる気がして。……でも、おまえは、なんもしてこねぇじゃん」


沈黙が落ちる。

日下部はその場から動かず、遥の額に手を置いた。


「……一緒にいればいいって思っただけ。したくないってことじゃない。けど……お前が“試してる”なら、それはちょっとずるいよ」


遥は、ほんの少し口角を動かした。

笑いかけて、でもすぐその形は崩れた。


「……そうかもな」


それきり、言葉は続かなかった。


でも日下部の指は、遥の背中にそっと添えられたままだった。

それが、触れる以上の何かを確かに伝えていた。



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