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「私に話とは?」
柊也と廊下で別れた後、ルナールとアグリオスは近くの空き部屋に入った。巨人族仕様の部屋は無駄に広く、家具類が全く置いていない。これだけ広い建造物だとこんな空き部屋も相当多いのだろうなと思いながらルナールが部屋を見渡していると、アグリオスがルナールの側に近寄って来た。
「一晩考えたんだがな、俺はこの体のままでいようって思ったんだ。だから俺の体に『鍵』をかけてくれ」
右手親指で自分の胸をトンッと叩きながら、アグリオスが言った。
「どうせお前なら出来んだろ?『アイツ』が撒き散らしてる変化を、解けないように」
「なんで……」
「『何で知ってるのか』って?そりゃあ、俺だってこんなナリになっちゃいるが、もはやほぼほぼ『神』みたいなもんだからな。『巨人族』は無駄に長生きで馬鹿力なだけじゃねぇぞ。セフィルみたいな数千だか数万年程度しか生きてねぇ生まれたての小僧ですら見抜いてる事を、この俺が知らねぇ訳ねぇだろうがよ」
呆れ顔で言われても、数字が大きくてルナールはどうもピンとこない。
「不便では無いのですか?かなりの力が失われるかと思うのですが……」
「『神』との戦争でもなきゃ役に立たねぇ馬鹿力なんか、今更いらねぇよ。そっちに回してたエネルギーを他に使える方が、この御時世なら丁度良いしな。殴り合いぐらいでしかデカイ図体なんか邪魔以外の何モンでもねぇし。アレしか知らん時なら、此処に居る分には不自由は無かったが、小せえのも気軽でいいぞ。飯が五分もかからんしな!片手間で食えるってのが実にいい」
「……きちんと食べて下さいね?」
「何にも食えねぇお前に言われたくねぇわ」
ペシッとアグリオスに脚を叩かれ、ルナールが悲鳴をあげそうになった。彼的にはツッコミ程度の軽い気持ちでやった行為でも、充分過ぎる程に痛い。ルナールでなければ壁まで吹っ飛んでいた所だ。
身をもって痛みを知り、小さくてもコレならば迷う事なくアグリオスの望みを受け入れようと、ルナールは即座に決意した。
「わかりました!なのでもう、ツッコミは無しでお願いします!」
「え?あぁ、わかった」
やらかした自覚の無いアグリオスが、きょとん顔で頷く。
「では、早速」
ルナールは気を取り直しながらそう言うと、側に立つアグリオスの胸元を指差し、魔力を指先に集めだした。紅い楔形文字に似た印が二人の間に現れ、それは仄かな光を放ちながら、アグリオスの体を貫いていった。
一瞬にも等しいその過程を全てジッと真剣な眼差して見届けていたアグリオスは、光が消えたと同時に、自らの胸元にそっと手を当てる。
「……コレが、『アイツ』の魔力の名残か……」
感慨深げに呟き、服の胸元をギュッと掴む。少しだけ感じる『ニャルラトホテプ』の『魔力』に、心が踊った。
「ありがとう。またこれで『記録』が捗るわ。あぁ、書いても柊也には読ませねぇから心配はすんな。あくまでも今はまだ、だけどな。どうせいつかは『自分が何者なのか』ちゃんと言うんだろ?」
「……はい」
「じゃあ、それは今日って事になりそうだな」
「……そう、ですね」
「二人にとって長い一日になりそうだな」
「あの……。トウヤ様は、『私』を受け入れてくれるでしょうか?」
ルナールの目が不安で揺れる。
「知らねぇよ。お前らの間に『絆』ってやつがあるなら、なるようになるんじゃねぇの?」
「慰めにもならない言葉ですね。まぁ、出来る事をやってはみますが……」
「全身全霊でかかっていきゃあ、柊也ならどうにか受け止めんだろ。お前らの周りを囲う雑多な不安要素は、記録院側でどうにでもしてやるから、あんま心配すんなや」
「……いいんですか?」
「俺達はいつだって【孕み子】と【純なる子】の味方だからな。『従者』って事になってるお前の事だって、引っ括めて応援してやるよ」
「ありがとうございます」
「お前とはこれから長い付き合いになるだろうからな、恩を売らんと損だ!」
「本心はそこですか。まぁ……その方が付き合いやすいので、いいですけどね」
「だろう?」
にっとした顔で笑い合い、「んじゃ、戻るか」とアグリオスが扉の方へと歩き出す。
二人は廊下で別れると、ルナールはセフィルの居るであろう応接室に。アグリオスは自分の定位置へと戻って行った。
「お帰り!ルナール」
予想通りの食事量に囲まれて、柊也がリスの顔をしながらルナールを迎い入れる。
昨日のお茶会の様に、朝から多種多様な手料理に囲まれた柊也は、甲斐甲斐しく世話をしようとするセフィルに困惑しつつも、若さに任せて朝からガッツリ御飯を頂いている。
そんな柊也を見て、ルナールがほっこりした気持ちになった。
「アグリオスとはもういいの?」
「はい。もう終わりました」
空いている席は沢山あるのに、ルナールは柊也の隣の席に腰掛けて、指示待ちの様に側に立つセフィルに声をかけた。
「すみません。今まで使っていた荷物を近日中に王城まで届けてもらう事は出来ますか?」
「えぇ、構いませんよ。後はもう城への移動だけでしょうから、邪魔ですもんね」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げて、ルナールが礼を言う。それに対し、セフィルが温和な笑みを浮かべ頷いて応えた。
「トウヤ様。食事が終わりましたら、早速ですが出発しましょうか」
「……う、うん。そうだね」
充分な休息と栄養もしっかり取った柊也が、硬い表情をしながら頷いた。
二人にとって、人生の中で最も長い一日がもうすぐ始まる。