テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
柊也とルナールが記録院・バベルの正面入り口の前で隣り合って立っている。
「いよいよ出発するんだね」
とうとう王城へ出発する時が来たのかと、柊也が感慨深い気持ちに。『この二人ともこんなにあっさり離れないといけないのか』と残念がる柊也とは違い、セフィルやアグリオスにはアッサリとした態度で別れを済まされた。
さてと、目指すは王都!なのだが——見渡す限りの森、森、森!で、最速気が萎え始めていた。記録院内から見た周囲の景色も樹海か少しの畑しか無く、『城』の『し』の字もなかった様子を思い出し、柊也のテンションが更に下がった。
「……えっと、王都ってまだまだ遠いよね?」
道らしい道が無いので馬車は使えず、ワイバーンを呼ぶ気配もないルナールに対し、柊也が訊いた。
「いいえ、ここはもう王都内ですよ。中心部からは少し離れていますけどね」
記憶違いでなければ、王城や、最初に案内された主神殿は柊也も馴染み深い首都と同じ場所にある。『富士山』の位置を思い出し、『随分広い範囲が王都だな、おい!』と柊也は思った。
最初に行ったレーヌ村は王都外であった事も思い出し、地域がどんな分け方をされているのか改めて気になったが、好奇心を表に出すのはグッと堪えた。
「少し?少し……獣人的には、少しなのか」
直線距離でも確か軽く百キロ以上は離れているはず。その距離を『ちょっと』と言い張る距離感覚は到底理解出来ず、柊也が森を見ながら遠い目をした。『今夜が最後』と昨日は思っていたが、中心街へ辿り着くだけでも、徒歩での移動では何日かかるか想像もつかない。
(途中に宿がある気配もなかったし、僕の足……保つかな)
一抹の不安を感じつつも「——よし!」と気合を入れて柊也が前に進もうとすると、ルナールに腕を掴まれ阻止された。
「ん?何?どうしたの、ルナール」
「トウヤ様の足では何日かかるか見当もつかないので、私が抱えて走ります」
「……え、いいよそんな」
「走ります」
語気強く、そして短く二度目を言われ『あ、コレは断れないやつや』と悟った柊也が「……はい」と頷いた。この為もあって、セフィルに荷物を預けたのかなぁと思っている間に、当然の様に横抱きで抱えられ、お姫様抱っこが完成する。
(昼間!しかも外!)
そう思うと、見ている者がパッと見では周辺にはいなかろうが恥ずかしい気持ちになってしまう。眉間にしわを寄せつつ、顔を染める柊也を気にする事なく、ルナールが樹海を突っ切る為に走り始めた。
駆け足程度の速さが、距離を進める程に早くなっていって柊也が落とされぬ様ルナールの首にしがみついた。
「トウヤ様……そのまま絶対に、私にしがみついていて下さいね」
緊張感のある声を聞き、柊也の顔が少し強張った。周囲から怪しい唸り声や何かが這う音が聞こえ始め、柊也の中で不安が生まれる。
「——まさか」
「そのまさかです!魔物の反応が多数!相手も相当焦っているのでしょうね」
そう言ったと同時にルナールが高くジャンプをし、襲いかかってきたカマイタチによく似た魔物の攻撃を回避した。だが、二人の周りからはわらわらと地面から湧き出す様に魔物が溢れ出し、樹海の隙間をゆるりと埋め始め、柊也の顔色が一気に青くなる。
「——な、何この数っ‼︎」
地面が見えないという表現が比喩では無い程に、とんでもない数の魔物が出現し、幾多の種類の者達が奇声を発しながら襲い掛かる。ゴブリン、カマイタチ、ワーム、バシリスク、スケルトンやリッチなどなど。『もうこれが最後のチャンスだから、全員でかかれ!』という意図がありありとわかるレベルの惨状だ。
右も左も魔物ばかりで隙間無く、逃げられる気がしない。恐怖のせいで柊也は掴む手に力が入った。だがルナールはといえば、ちょっと呆れ顔をしているだけで全く緊張感が無い。
「これだけの数を一気に召喚するなど……『彼』は何を代償として差し出す気なんだか」
ボソッと呟いたルナールの声は、魔物の奇声で掻き消された。
「相手にするのは面倒なので、強行突破します!」
叫ぶと同時にルナールが上に向かってジャンプし、魔物達の上を走り出した。宣言通り一体も倒す事も無く、ただひたすら相手の数が多い事を逆手にとって、魔物の頭を足場に進み続ける。
叫ぶ柊也がチラリと背後に目をやると、ルナールが足場にした魔物の頭には金色の光だけで作られた楔の様な物が突き刺さっている。それらは全て光の鎖で繋がっていて、『あれはなんだろう?ルナールの魔法かな?』と不思議に思ったが、猛スピードで樹海を駆け抜けて行く最中のルナールにはとてもじゃないが訊けなかった。
何処まで走っても次々に魔物の絨毯が出来上がっている、『富士の樹海かも?』と柊也が推測している森を抜けて行く。未開発な為、木と木の隙間が極端に狭く、密集していたり、背の高い草木に覆われた地形も魔物のおかげでかえって進みやすそうだ。
途中途中に点在する小川も、わらわらと密集している魔物の頭を踏みつけて通過したので、体が濡れる事も無くクリア出来た。
(あれ?コレ……地味に色々と助かってね?)
時々飛びかかって攻撃してくる魔物や、飛び道具を投げてくる者もいたにはいたが、魔物達は基本的にはほぼただの足場と化している為、「——もう少しで森を抜けます!」とルナールに言われた時には、本気でかかってきた襲撃者に対し、申し訳ない気持ちになってきた。
まともに全力で戦う気満々だったろう相手の気持ちを、ここまでスルーするルナールは鬼だね!
——とも。
樹海を抜け、広いスペースに、二人が魔物達よりも先に飛び出して来た。
足場にされてしまっただけの魔物達はまだ森の中でウネウネと動き、手を前に伸ばして柊也達を追いかけようとしている。そんな魔物達とルナールの間には光の鎖が繋がっており、『物質』では無いのにジャラッと音をたてていた。
「トウヤ様、一度失礼します」
ルナールが柊也を地面に降ろし、自分の靴に繋がる光の鎖を持ち上げて外す。その鎖へ、左腕にある武器を収納したブレスレットを外して通すと、ルナールは目を閉じて、ふぅと息を吐き出した。
「炎より生まれしイフリートよ!その身に宿す怒りを全て解き放ち、魔物共をのみを焼き尽くせ!」
ルナールがそう言うと、彼のブレスレットが、まるで“願い”の代償の様に砕け散り、真っ赤な炎が鎖を伝って樹海へと猛スピードで向かって行く。同時にあがる叫び声と、炎から逃げ惑う魔物の姿が遠くに見え、柊也がぽかんとした顔になった。
森を焼く事なく、魔物達だけにその炎は感染する様に広がり続ている。長い長い光の鎖と繋がった楔が刺さる者が我先に逃げようとすると、鎖が周囲の魔物を巻き込み、燃えて崩れた。
木々はそのままに、だけど大量の魔物達だけが次々に燃えていく様子は、間近で見たならばまさに阿鼻叫喚の地獄絵図だったろうが、柊也の位置からはほとんどその様子は見えていなかった事が唯一の救いだ。
燃える鎖を手から離し、ルナールが柊也へと寄り添う。
「お怪我は無いですか?」
「……え、あ、うん。ごめんビックリしちゃって。ルナールの魔法……すごいね」
「魔法?あ、いえ、あれは魔法具の力であって、私にはほとんど魔力は無いですよ。一掃する為にブレスレッドを犠牲にしてしまったので、武器はもう、柊也様の長剣をお借りするしか無い状態です」
「あー……。そんな物もありましたね」
スライム戦を思い出し、柊也が穴があったら入りたい気分になった。
「さて」と言いながら、ルナールがまた柊也を横抱きして持ち上げる。
「城までこのまま向かいましょうか」
「魔物……あのままでいいの?」
「森は無事ですから、平気でしょう」
(そうかな、そうなのかな。……まぁ、ルナールがそう言うなら、うん)
無理矢理納得すると、柊也は大人しくルナールの腕に包まれながら王城に向かったのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!