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遥の相談室2

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遥の相談室2

94 - 第94話 助けた後に壊れる関係

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2026年01月28日

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放課後の教室は、まだ熱が残っていた。窓は開いているのに、空気は動かない。


相談スペースに座った女子生徒は、制服の袖を何度も引っ張っていた。


「……助けたんです」


言い切りだった。

遥は顔を上げず、続きを待つ。


「クラスの子が、いじめられてて。

無視されて、物もなくなって。

見てられなくて」


女子生徒は一度、言葉を切る。


「先生に言いました。

名前も出しました」


机の影が、少しずつ伸びていく。


「それで、止まったんです。

いじめは」


遥は、小さく頷いた。


「でも」


女子生徒の声が、少しだけ低くなる。


「その子と、終わりました」


遥は何も言わない。


「最初は、

“ありがとう”って言われました。

一緒に帰ったりもして」


女子生徒は、指先を見つめる。


「でも、だんだん……

避けられるようになって」

「理由は」

「分からないです」


すぐに否定する。


「分かりたくない、の方が近いかも」


教室の外で、部活の掛け声が響く。


「周りからも、

変に見られるようになりました。

“正義感強い人”とか」


女子生徒は、苦く笑った。


「正しいことをしたはずなのに、

居場所がなくなった感じで」


遥は、机の端に手を置いた。


「助けた後に、関係が壊れる。

珍しくない」


淡々とした声だった。


「え……」

「助けるってな、

相手の“弱い時期”を一緒に通るってことだ」


女子生徒は、視線を上げる。


「立ち直った後、

その時期ごと切り離したくなるやつもいる」


女子生徒の喉が動く。


「……私が、

その子の“嫌な過去”になったってことですか」

「可能性の話だ」


遥は言葉を選ぶ。


「助けた側が悪者になるんじゃない。

ただ、役目が終わる」


女子生徒は、静かに息を吸った。


「でも、

私は友だちでいたかった」


その一言に、空気が沈む。


「感謝されたいわけじゃない。

ヒーローになりたかったわけでもない」


遥は、そのまま聞く。


「ただ……

一緒にいられると思ってた」


少しの沈黙。


「助けるって、

相手の人生に踏み込むことだ」


遥は低く言う。


「戻れなくなるラインを、

越えることでもある」


女子生徒の目が揺れる。


「じゃあ、

助けなきゃよかったんですか」

「違う」


遥は即答した。


「選択としては、間違ってない」

「でも、結果が……」

「結果が壊れることもある」


遥は目を逸らさない。


「それを“失敗”って呼ぶかどうかは、

後で決めろ」


女子生徒は、拳を握る。


「私、

損したみたいじゃないですか」

「損だ」


遥ははっきり言った。


「助けるって、

大体損する」


女子生徒は、驚いたように遥を見る。


「評価も、関係も、

安全も」


遥は続ける。


「それでもやるやつは、

“得”を期待してない」


女子生徒は、しばらく黙っていた。


「……私、

あの子に嫌われたままでも、

間違ってなかったですか」


遥は、少し間を置いて答える。


「嫌われたかどうかは分からない」


そして、続ける。


「でも、

お前は自分で選んだ」


その言葉が、教室に残る。


「選んだ結果、

一人になることもある」


女子生徒は、目を伏せた。


「正義って、

孤立することも含む」


遥の声は、静かだった。


「それでも、

“何もしなかった自分”より、

マシだと思えるなら」


女子生徒は、ゆっくり息を吐く。


「……今は、

まだ分からないです」

「それでいい」


遥は短く言う。


「分からないまま立ってるのが、

今の位置だ」


女子生徒は立ち上がった。

顔は硬いが、逃げてはいない。


扉が閉まり、足音が遠ざかる。

遥は一人、窓の外を見る。

夕焼けは消え、街の灯りが点き始めていた。


「……助けた後に残るのは、

感謝じゃなくて、選択の重さだ」

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