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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

98 - 第98話 何も起きてないのに、もう限界な人

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2026年02月04日

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相談者は、椅子に座ってすぐ天井を見た。


「今日さ」

「うん」

「別に、何もなかった」

「その前置き、危険だな」


蓮司が言うと、相談者は小さく笑った。


「だよな」

「だいたい“あった”時の言い方」

「でも本当にない」

「事件も?」

「ない」

「揉め事も?」

「ない」

「怒られた?」

「ない」


相談者は指を折るのをやめた。


「なのに」

「うん」

「もう無理」


蓮司はすぐには返さなかった。


「体?」

「重い」

「心?」

「静か」

「静か?」

「騒いでない」


相談者は胸に手を当てる。


「切羽詰まってない感じが、一番やばい」


蓮司は頷いた。


「正解」

「え」

「限界の一個手前」

「手前?」

「ブレーキ踏まなくなる段階」


相談者は眉をひそめる。


「事故るやつじゃん」

「そう」

「何で?」

「警告音、無視し続けたから」


少し間が空く。


「俺さ」

「うん」

「ちゃんとやってる」

「知ってる」

「休んでないわけじゃない」

「知ってる」

「なのに回復しない」

「それな」


蓮司は椅子にもたれた。


「回復って、出来事の量じゃない」

「じゃあ何」

「緊張の継続時間」


相談者は考える。


「ずっと張ってると?」

「切れない」

「ゴムみたいだな」

「切れる前に、伸びなくなる」


相談者は息を吐いた。


「俺、切れないタイプ」

「切れないやつほど危ない」

「なんで」

「止まらないから」


相談者は黙る。


「なあ」


蓮司が言う。


「限界ってさ」

「うん」

「派手なサインだと思ってない?」

「倒れるとか?」

「泣くとか」

「怒鳴るとか」

「全部、分かりやすい」

「俺は?」

「静か」


相談者は小さく笑った。


「最悪じゃん」

「最悪に気づけてる」

「救い?」

「まだハンドル握ってる」


相談者は椅子の背にもたれた。


「何も起きてないのに休むと」

「うん」

「サボってる気になる」

「なるな」

「理由がない」

「ある」

「どれ」

「もう無理」


相談者は首を振る。


「それ、説明にならない」

「説明しなくていい場所もある」

「ここ?」

「ここ」


少し沈黙。


「俺さ」

「うん」

「限界って言葉、使うの怖い」

「分かる」

「大げさって思われそう」

「思う人もいる」

「じゃあ」

「言い換える」

「何て」


蓮司は少し考えて言った。


「余白がない」

「余白」

「考えなくていい時間が、ゼロ」


相談者は目を閉じる。


「あー……」

「当たった?」

「全部、何かしてる」

「それだ」


蓮司は続ける。


「余白がないと」

「うん」

「回復の指示が出ない」

「体が?」

「体も、頭も」


相談者は深く息を吐いた。


「じゃあ俺」

「うん」

「何すればいい」

「何もしない時間を、予定に入れる」

「矛盾してない?」

「今はそれでいい」

「何分」

「五分」

「短」

「続く」


相談者は立ち上がる。


「今日」

「うん」

「ここ来たのも、余白?」

「そう」

「何も起きてないのに?」

「何も起きてないから」


ドアの前で、相談者が振り返る。


「なあ」

「なに」

「限界って」

「うん」

「壊れてから気づくもんだと思ってた」

「それは遅い」

「じゃあ今は?」

「予告」


相談者は少しだけ笑った。


「じゃあ、回避できる?」

「できる」

「よかった」


ドアが閉まる。


限界は、

音を立てない。

だから気づけた人は、

もう半分、助かってる。

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