テラーノベル
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相談者は入ってきてすぐ、床を見たまま言った。
「今日さ」
「うん」
「休んできた」
「何を」
「部活」
「珍しいな」
「珍しい」
椅子に座る動きがぎこちない。
「で」
蓮司が言う。
「世界は終わった?」
「終わってない」
「誰か死んだ?」
「死んでない」
「怒られた?」
「まだ」
相談者は苦笑した。
「でも」
「うん」
「罪悪感だけ、めちゃくちゃある」
蓮司は頷く。
「あるな」
「熱ない」
「ない」
「ケガもない」
「ない」
「家の用事もない」
「ない」
「じゃあ何で休んだのって顔される」
「されるだろうな」
相談者は肩をすくめた。
「説明できない」
「できないか」
「なんかもう」
言葉を探す。
「余裕がなかった」
蓮司はすぐに返さなかった。
「それ、理由だな」
「弱くない?」
「十分強い」
相談者は少し黙る。
「俺さ」
「うん」
「ちゃんとした理由がないと、休んじゃダメだと思ってた」
「多いな」
「倒れるとか」
「うん」
「熱出るとか」
「うん」
「そういうのないと」
「休む資格ない?」
「そう」
蓮司はペンを回す。
「じゃあ聞く」
「うん」
「倒れる前は?」
「え」
「倒れる前の段階は?」
「……ある」
「そこは?」
「休んじゃダメって思ってた」
「矛盾してるな」
相談者は苦笑する。
「倒れてから休めってこと?」
「それだと遅い」
「だよな」
少し沈黙。
「なあ」
相談者が言う。
「みんな、普通に来てるじゃん」
「来てるな」
「俺だけ休むと」
「うん」
「サボり感すごい」
蓮司は頷く。
「集団はそう見える」
「でもさ」
「うん」
「全員、同じ体力じゃないよな」
「違う」
「同じ余裕でもない」
「違う」
「なのに基準一緒」
「集団だからな」
相談者は息を吐く。
「俺、頑張ってないわけじゃない」
「知ってる」
「でも」
「?」
「証明がない」
蓮司は少し笑った。
「休みの証明か」
「いるじゃん」
「いらない」
「でも求められる」
「外はな」
蓮司は続ける。
「ここではいらない」
「ここ基準で生きられないだろ」
「全部は無理」
「だよな」
相談者は背もたれに寄りかかる。
「休むってさ」
「うん」
「許可がいる感じする」
「誰の」
「周りの」
「自分のは?」
「出してない」
「じゃあ出せ」
相談者は少し笑う。
「簡単に言うな」
「簡単じゃない」
蓮司は少しだけ真面目な声で言った。
「理由がないと休めない人は、理由が出るまで走る」
「怖いこと言うな」
「現実だ」
相談者は黙る。
「だから」
蓮司が続ける。
「小さい理由で休む練習」
「練習」
「今日やった」
「罪悪感ついた」
「副作用」
「取れんのこれ」
「回数で薄まる」
相談者は天井を見る。
「じゃあさ」
「うん」
「今日の休み」
「うん」
「間違ってない?」
「合ってる」
「証明は?」
「ここに来た」
相談者は少しだけ笑った。
「それでいい?」
「いい」
「外では?」
「言い方を変えろ」
「何て」
「ちょっと調整」
「ずる」
「生存戦略」
相談者は立ち上がる。
「俺さ」
「うん」
「倒れる前に休んだの、初めて」
「記念日だな」
「祝うな」
「静かに祝う」
ドアの前で振り返る。
「なあ」
「なに」
「次も理由なかったら」
「うん」
「休んでいい?」
「早めに来い」
相談者は小さく頷いて出ていった。
休むのに、
大きな理由はいらない。
壊れる前に止まるのは、
甘えじゃなくて技術だ。
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