テラーノベル
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昼休み。
教室は騒がしかった。
机を寄せて弁当を食べるやつ。廊下で追いかけっこを始めるやつ。誰かの笑い声が、何度も弾ける。
遥は窓際でパンを食べていた。
昨日の夜から何も食べていなかった。
空腹だった。
でも、一口目を飲み込んだところで。
「お」
声が落ちる。
蓮司だった。
教室の空気が少し変わる。
「一人?」
返事はしない。
「友達待ち?」
周りが笑う。
遥はパンを袋に戻した。
「食えよ」
蓮司が言う。
「せっかく買ったんだろ」
「……」
「食べないの?」
静かだった。
でも。
蓮司はパンを取らない。
殴らない。
蹴らない。
ただ。
遥の机の前に立ったまま。
見ている。
それだけ。
「食え」
遥はまたパンを持つ。
口へ運ぶ。
飲み込む。
「ほら」
蓮司が笑う。
「ちゃんと食えるじゃん」
周りも笑う。
「赤ちゃんじゃないんだから」
誰かが言う。
笑いが広がる。
遥はもう一口食べる。
喉が詰まる。
水がない。
でも止まれない。
「止まるな」
蓮司。
「食え」
遥は噛む。
味はしなかった。
「暗い」
誰かが言う。
「もっと笑えよ」
「そうそう」
「飯食う時くらい」
笑え。
笑え。
笑え。
言葉だけが飛ぶ。
遥は少しだけ口角を上げた。
無理に。
ぎこちなく。
「違う」
蓮司が首を振る。
「気持ち悪い」
教室が笑う。
「もっと自然に」
遥はもう一度。
笑おうとした。
頬が震える。
目だけが笑えない。
「それ」
誰かが指をさす。
「泣きそうじゃん」
また笑い。
「何で被害者みたいな顔してんの?」
その一言で。
教室はさらに明るくなる。
遥は笑うのをやめた。
「ほら」
蓮司が肩をすくめる。
「やっぱ無理か」
パンはまだ半分残っていた。
「もういらね」
誰かが言う。
その瞬間。
パンが遥の手から弾かれた。
床へ落ちる。
潰れる。
クリームが白く広がった。
一瞬だけ。
教室が静かになる。
遥はしゃがむ。
拾おうとする。
その手より先に。
誰かの上履きが乗った。
ぐしゃり。
音がした。
「悪い」
謝る声。
笑いながら。
誰も悪いとは思っていない声。
遥は手を止めた。
床のパンを見つめる。
腹は減っていた。
それでも。
拾えなかった。
「次、移動教室ー」
誰かが叫ぶ。
空気が切り替わる。
みんな立ち上がる。
笑いながら教室を出ていく。
数十秒後。
教室には遥だけが残った。
潰れたパン。
白いクリーム。
静かな教室。
遥はゆっくりしゃがみ込む。
袋だけを拾って。
何も入っていないその袋を折りたたみ。
制服のポケットへしまった。
それから立ち上がる。
腹が鳴った。
教室には誰もいない。
その音だけが。
少しだけ大きく響いた。
コメント
1件
読み終わった……胸がギュッてなったわ。 「笑え」って強制する空気、めちゃくちゃリアルで怖かった。無理に口角上げた遥のシーンと、パンが潰れる瞬間の静けさが刺さる。腹減ってるのに拾えない、最後の腹の音だけが響く教室の描写が、余計に孤独を感じさせてくる。ひどい話だけど、だからこそ続きが気になる。ruruhaさん、この空気感の描き方、マジでうまいよ。