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ふみ
2,589
休み時間の終わり、遥は職員室からプリントを運んでいた。クラスに配る分。束のまま抱えて、急いで戻る途中で、前から来た生徒と軽くぶつかる。
その拍子に、手がずれて、紙が落ちる。
廊下にばらける。
一瞬で拾えば済む量じゃない。
「は?」
最初の声が落ちる。
「何してんの」
足元の紙を見ながら言われる。
遥はしゃがむ。拾い始める。
「ちょっと待って、ぐちゃぐちゃになってるじゃん」
別の声が入る。
「順番どうすんのそれ」
遥は言う。
「……並べ直す」
「どの順番で?」
すぐに来る。
遥は一瞬止まる。
「出席番号」
「覚えてんの?」
間を置かせてもらえない。
「今ここで?」
周りに笑いが混ざる。
「無理だろ」
誰かが言う。
遥は紙を揃えながら答える。
「……見て確認する」
「どこで?」
さらに詰められる。
「教室で」
「じゃあ今の状態で持ってくの?」
即座に繋げられる。
「それ配れる形になってる?」
遥は答えられない。
手だけが動く。
「そもそもさ」
別の方向から声が来る。
「何で落としたの?」
原因に戻される。
遥は言う。
「……ぶつかって」
言った瞬間に、違うと分かる。
「人のせいにするんだ」
すぐ拾われる。
「自分で持ててなかっただけだろ」
上から被せられる。
「ちゃんと持ってたら落ちないよな」
遥は言い直す。
「……持ち方が悪かった」
「どこが?」
間を許されない。
「端、持ってたから」
「じゃあ何で端持ったの?」
続けて来る。
遥は言葉を探す。
「……急いでて」
「急いでるのはみんな同じだけど?」
比較が入る。
「それ理由になってる?」
遥は黙る。
その沈黙がそのまま意味になる。
「ほら答えられない」
軽く言われる。
「結局ちゃんと持ってなかっただけじゃん」
まとめられる。
遥は否定しようとする。
「……気をつける」
出た言葉に、すぐ声が重なる。
「今じゃなくてさ」
「次どうすんの?」
未来を求められる。
「同じ状況になったら?」
同時に別の問い。
「また落とすの?」
「防げるの?」
遥は詰まる。
「……両手で持つ」
やっと出す。
「最初からやれよ」
即座に返される。
「何で今までやってないの?」
また過去に戻る。
遥は言葉が出ない。
「で?」
別の声が被る。
「今落とした分どうすんの?」
現実に戻される。
「順番バラバラだよな」
紙を足で軽くずらされる。
さらに混ざる。
遥の手が止まる。
「止まるなよ」
すぐに言われる。
「さっきからそればっか」
評価が積み重なる。
遥は慌てて拾う。
「今何枚落とした?」
別の声。
「全部じゃね?」
笑いが混ざる。
「数分かってる?」
遥は答えられない。
数える余裕がない。
「管理できてないじゃん」
断定される。
「任せた意味ないよな」
さらに重なる。
遥の中で、さっきの“落とした”が広がっていく。
ただの一回じゃなくなる。
「これ配るんだよな?」
誰かが紙を一枚持ち上げる。
「順番違ったらどうなる?」
「混乱するよな」
「それで迷惑かけるの誰?」
問いが連続する。
遥は答える。
「……クラス」
「クラスって誰」
すぐ狭められる。
「具体的に」
遥は言葉を探す。
名前が浮かぶ前に、声が重なる。
「ほら出てこない」
「また曖昧」
逃げた扱いになる。
「自分がやったことの影響も分かってないんだ」
まとめられる。
遥は否定できない。
「じゃあさ」
最後に一つの声が落ちる。
「今ここでどうするのが正解?」
逃げ場のない形で置かれる。
遥は紙を抱えたまま考える。
でも、どの答えも足りないと分かっている。
「……並べて、配る」
言う。
「順番分かんの?」
すぐに来る。
「今?」
「ここで?」
重なる。
遥は詰まる。
何を言っても崩される感覚だけが残る。
周りはもう少しずつ動き始めている。
「遅いから置いてくぞ」
「勝手にやっとけ」
笑いながら離れていく。
足元にはまだ紙が残っている。
遥はしゃがんだまま、それを拾い続ける。
何を間違えたのかは分かっているはずなのに、どこから直せばいいのかは、最後まで分からないままになる。
コメント
1件
わあ……第78話、読み終わりました。 もう、胸がぎゅっとなりました……。 遥がプリントを落とした“たったそれだけ”の出来事なのに、あんなに言葉で追い詰められていくの、読んでて息が苦しくなった。一人ひとりの言葉は「正論」なのかもしれないけど、積み重なると逃げ場がなくなるんだな、って。 特に「今ここでどうするのが正解?」って最後の問い——答えを出せない遥の気持ち、すごく分かる気がしました。正解を押しつけられて、でも何を言っても崩されちゃう感じ。 ruruhaさんの書く「日常の闇」、やっぱりすごくリアルで、心に残ります。 このお話、遥の心の声とかもっと知りたくなったな。