テラーノベル
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休み時間の終わり、遥は職員室からプリントを運んでいた。クラスに配る分。束のまま抱えて、急いで戻る途中で、前から来た生徒と軽くぶつかる。
その拍子に、手がずれて、紙が落ちる。
廊下にばらける。
一瞬で拾えば済む量じゃない。
「は?」
最初の声が落ちる。
「何してんの」
足元の紙を見ながら言われる。
遥はしゃがむ。拾い始める。
「ちょっと待って、ぐちゃぐちゃになってるじゃん」
別の声が入る。
「順番どうすんのそれ」
遥は言う。
「……並べ直す」
「どの順番で?」
すぐに来る。
遥は一瞬止まる。
「出席番号」
「覚えてんの?」
間を置かせてもらえない。
「今ここで?」
周りに笑いが混ざる。
「無理だろ」
誰かが言う。
遥は紙を揃えながら答える。
「……見て確認する」
「どこで?」
さらに詰められる。
「教室で」
「じゃあ今の状態で持ってくの?」
即座に繋げられる。
「それ配れる形になってる?」
遥は答えられない。
手だけが動く。
「そもそもさ」
別の方向から声が来る。
「何で落としたの?」
原因に戻される。
遥は言う。
「……ぶつかって」
言った瞬間に、違うと分かる。
「人のせいにするんだ」
すぐ拾われる。
「自分で持ててなかっただけだろ」
上から被せられる。
「ちゃんと持ってたら落ちないよな」
遥は言い直す。
「……持ち方が悪かった」
「どこが?」
間を許されない。
「端、持ってたから」
「じゃあ何で端持ったの?」
続けて来る。
遥は言葉を探す。
「……急いでて」
「急いでるのはみんな同じだけど?」
比較が入る。
「それ理由になってる?」
遥は黙る。
その沈黙がそのまま意味になる。
くつしたのあな
317
「ほら答えられない」
軽く言われる。
「結局ちゃんと持ってなかっただけじゃん」
まとめられる。
遥は否定しようとする。
「……気をつける」
出た言葉に、すぐ声が重なる。
「今じゃなくてさ」
「次どうすんの?」
未来を求められる。
「同じ状況になったら?」
同時に別の問い。
「また落とすの?」
「防げるの?」
遥は詰まる。
「……両手で持つ」
やっと出す。
「最初からやれよ」
即座に返される。
「何で今までやってないの?」
また過去に戻る。
遥は言葉が出ない。
「で?」
別の声が被る。
「今落とした分どうすんの?」
現実に戻される。
「順番バラバラだよな」
紙を足で軽くずらされる。
さらに混ざる。
遥の手が止まる。
「止まるなよ」
すぐに言われる。
「さっきからそればっか」
評価が積み重なる。
遥は慌てて拾う。
「今何枚落とした?」
別の声。
「全部じゃね?」
笑いが混ざる。
「数分かってる?」
遥は答えられない。
数える余裕がない。
「管理できてないじゃん」
断定される。
「任せた意味ないよな」
さらに重なる。
遥の中で、さっきの“落とした”が広がっていく。
ただの一回じゃなくなる。
「これ配るんだよな?」
誰かが紙を一枚持ち上げる。
「順番違ったらどうなる?」
「混乱するよな」
「それで迷惑かけるの誰?」
問いが連続する。
遥は答える。
「……クラス」
「クラスって誰」
すぐ狭められる。
「具体的に」
遥は言葉を探す。
名前が浮かぶ前に、声が重なる。
「ほら出てこない」
「また曖昧」
逃げた扱いになる。
「自分がやったことの影響も分かってないんだ」
まとめられる。
遥は否定できない。
「じゃあさ」
最後に一つの声が落ちる。
「今ここでどうするのが正解?」
逃げ場のない形で置かれる。
遥は紙を抱えたまま考える。
でも、どの答えも足りないと分かっている。
「……並べて、配る」
言う。
「順番分かんの?」
すぐに来る。
「今?」
「ここで?」
重なる。
遥は詰まる。
何を言っても崩される感覚だけが残る。
周りはもう少しずつ動き始めている。
「遅いから置いてくぞ」
「勝手にやっとけ」
笑いながら離れていく。
足元にはまだ紙が残っている。
遥はしゃがんだまま、それを拾い続ける。
何を間違えたのかは分かっているはずなのに、どこから直せばいいのかは、最後まで分からないままになる。
コメント
1件
わあ……第78話、読み終わりました。 もう、胸がぎゅっとなりました……。 遥がプリントを落とした“たったそれだけ”の出来事なのに、あんなに言葉で追い詰められていくの、読んでて息が苦しくなった。一人ひとりの言葉は「正論」なのかもしれないけど、積み重なると逃げ場がなくなるんだな、って。 特に「今ここでどうするのが正解?」って最後の問い——答えを出せない遥の気持ち、すごく分かる気がしました。正解を押しつけられて、でも何を言っても崩されちゃう感じ。 ruruhaさんの書く「日常の闇」、やっぱりすごくリアルで、心に残ります。 このお話、遥の心の声とかもっと知りたくなったな。