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放課後の教室は、薄暗く静まり返っていた。
卒業まであと数日。外では、春風に混ざって工事の音や遠くの車の音がかすかに聞こえる。
陸は窓際の席に座り、手元のノートに落書きのような文字を並べていた。
でも頭の中は整理できず、胸の奥で何度も昨日のことが反芻される。
「……湊は、俺のことどう思ってるんだろう」
小さく呟き、視線は窓の外へ。曇り空に目を泳がせながら、言葉にならない想いが胸を締めつける。
教室の扉が静かに開き、湊が入ってきた。
「陸、ちょっといいか?」
低い声。無駄な緊張はないが、確かな意志が感じられる。
陸は咄嗟に顔を上げ、鼓動が早まる。
「……うん」
返事は小さい。言葉よりも、胸の高鳴りが先に出てしまう。
湊はノートや教科書を机に置かず、ただ席の前に立った。
「俺……昨日のこと、ずっと考えてた」
視線を逸らさず、しかし柔らかく。
「陸が、危険に巻き込まれるのは、もう見たくないって思ったんだ」
陸は息を呑む。胸の奥の感情が、ふわりと揺れる。
「……俺も、湊のこと……」
言葉を続けようとしても、途切れてしまう。
湊は少し身をかがめ、陸の目を見る。
「陸……俺、はっきりさせたいんだ。俺の気持ちも、陸の気持ちも」
胸の奥から滲む言葉は、ゆっくりと温かい光を帯びていた。
陸はゆっくり息を吐き、手元のノートを握り直す。
「……俺、ずっと……湊のこと意識してた。昨日の夜も……助けてもらって嬉しかった……」
途切れた声に、胸の奥の緊張と期待が混ざる。
湊は微笑み、少しだけ息をつく。
「俺もだ。陸のこと、ずっと考えてた。隠せなくなったんだ……もう、逃げたくない」
その目は真剣で、揺るぎない。
陸は一歩前に出て、少し顔を赤らめる。
「……湊……俺、どうしたらいいかわからなくて……でも、俺……」
言葉がつまる。胸の奥の感情が溢れそうになる。
湊はそっと手を差し出す。
「俺と一緒に、未来を選ぼう。逃げる必要はない」
その手は、文字通り陸の迷いを受け止めるように差し伸べられていた。
陸はゆっくりと湊の手を取る。
「……うん……一緒に……」
声は震えても、決意は確かだ。
教室の静けさの中、二人の距離は自然と縮まる。
視線も、呼吸も、すべてが互いを意識する。
言葉にできない思いは、握った手の温もりに変わり、心の奥まで染み渡る。
卒業まであとわずか。
でも、二人はもう迷わない。
選ぶ未来は、互いの手の中にあった。