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卒業式が終わり、校庭には残された桜の花びらが風に舞っていた。
陸と湊は、式の喧騒から少し離れた校舎裏のベンチに並んで座っている。
「……やっと、全部終わったな」
陸は肩の力を抜き、深く息を吐いた。
「ああ……長かったけど、これで一区切りだな」
湊も同じように肩の力を抜き、少し笑みを浮かべる。
互いの視線が自然に合う。言葉にしなくても、心の奥で昨日までの緊張が溶けていくのがわかる。
沈黙の中、陸は小さく手を差し出す。
「……手、つないでいい?」
言葉にするのは恥ずかしい。でも、自然と出てしまった。
湊は少し驚きながらも、すぐに微笑む。
「もちろんだ」
指先が触れると、これまでのぎこちなさや迷いが、一瞬で溶けるようだった。
手をつないだまま、二人は桜の花びらを見上げる。
「……俺、昨日からずっと……」
陸は言葉を探すが、胸の奥が熱くなりすぎて、言葉が途切れる。
湊はそっと陸の肩に手を置き、顔を近づける。
「陸……俺も同じだ。ずっと考えてた。どうすればいいか、何度も迷った」
その目は真剣で、しかし温かい。
陸は少し息を飲み、視線をそらせずにいる。
「……湊……」
声が震える。心臓は張り裂けそうだが、恐怖ではなく、期待と安心の震えだった。
湊はゆっくりと、陸の唇に顔を近づける。
「……いいか?」
小さく確認の声。陸は目を閉じ、うなずく。
その瞬間、唇が重なる。
短く、でも確かなキス。互いの鼓動が手を通して伝わり、胸の奥にまで染み込む。
沈黙とぎこちなさ、ためらい――それらが一気に溶けて、柔らかい温かさだけが残る。
キスを終えると、二人は自然に顔を寄せたまま微笑む。
「……やっと、言葉にできたな」
陸の声は小さいけれど、確かな安心感を含んでいた。
湊も微笑む。
「うん……これからは、迷わずに一緒に歩ける」
手を握る力が少し強くなる。互いの存在を確かめ合うように。
校庭には、残った桜の花びらが風に舞い続ける。
春の光が二人を柔らかく包み込み、過去の沈黙や葛藤を優しく溶かしていった。
初めてのキス。それは、単なる行為ではなく、互いの気持ちを確認し合う、二人だけの特別な約束だった。
「……これからも、ずっと……一緒にいてくれる?」
陸が問いかけると、湊は短くうなずき、笑顔で答える。
「当たり前だ。絶対だ」
その言葉を胸に、二人は新しい春の日差しの中で、未来への一歩を踏み出した。