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歩きながら、栞は直也に聞いた。



「ご実家のクリニックには、今も週一で行っているのですか?」

「うん。同じ曜日に通ってるよ」

「そうなんですね……あ、園田さんはまだクリニックにいらっしゃいますか?」

「ん? いるよ。どうして?」

「私が倒れた時、真っ先に駆け付けてくれた方だから」

「ああ、そうだったね。彼女は今も受付をやってくれてるよ」

「実は園田さん、私の母に似ているんです」

「え?」

「あ、亡くなった本当の母の方です」

「そうなんだ。どんなところが?」

「一番似ているのは声なんですけど、顔や雰囲気もなんとなく……」

「へぇ……そんなことってあるんだなぁ」

「え?」

「あの時、とっさに君の元へ駆けつけたのは、きっと娘さんのことを思い出したからだと思うよ」

「え?」

「実は彼女には娘さんがいたんだ。でも小学生の時に交通事故で亡くなってしまってね……彼女はその後離婚して、クリニックで働くようになったんだ」

「…………」



栞は、その衝撃的な事実を聞いて、言葉を失った。

まさか、あの優しい園田にそんな辛い過去があるとは思ってもいなかった。

園田はいつも笑顔で穏やかだったので、栞は彼女のことを普通の幸せな主婦だと思っていた。


黙り込む栞に、直也は続けた。



「彼女のお嬢さんが生きていたら、たぶん栞ちゃんくらいの年齢だったんじゃないかな?」



それを聞いて、栞はさらに衝撃を受ける。



「そうだったんですね……私、何も知らなくて…….」

「ハハッ、君が気にすることはないさ。うちに来た時の彼女は、物静かで人と関わりたがらない印象だったけど、今ではすっかり元気を取り戻して患者さんたちからも慕われてる。きっと長い年月が彼女の心を癒したんだろうな」



そう言って、直也は微笑んだ。



『人間はね、辛い経験をした人ほど人に優しくなれるのよ』



昔、母がそんなことを言っていた。

園田がいつも優しいのは、辛い経験を乗り越えてきたからなのかもしれないと、栞は思った。



そこで直也が、栞に尋ねた。



「ファミレスのバイトは、まだ続けてるの?」

「はい。店長に辞めないでって言われたので」

「そうなんだ。えっと、じゃあ…….そう、瑠衣ちゃん! 彼女もまだいるの?」

「瑠衣もそのまま続けてますよ」

「そっかぁ、なんか懐かしいなー! ちなみに明日はバイトは?」

「明日はシフト入ってます」

「時間は?」

「午後6時から10時までです」

「そっか! ちゃんとバイトも続けていて偉いね」



その時、二人は直也のマンションの前に到着した。



「じゃあ、ここで……」

「遅いから君のマンションまで送っていくよ」

「すぐそこですから、大丈夫ですよ」

「いや、ダメだ!」

「でも、先生お疲れじゃ…….」

「まぁ、疲労感は半端ないなー。だって、片付けは大の苦手だからさぁ」

「片付け? ああ、研究室の!」

「参ったよ…今度取材が入るかもしれないんだ。だから、それまでに片付けなきゃいけないんだけど、大学には週一しか行かないから、進まないよなー」

「取材ですか? すごいじゃないですか!」

「ありがと! あの研究室は日当たりはいいけど、なんか殺風景なんだよなぁ。だから、家にある観葉植物を持って行ってはみたけど、それでもまだイマイチおしゃれじゃなくてさぁ。なんとかならないかなぁ……あ、そうだ! 栞ちゃん、なんとかしてくれない?」

「えっ?」

「ちゃんとバイト代は払うからさ。テーマは『おしゃれな研究室』ってことで! 本棚には僕の著書も並べたいし……こういうのって女性は得意だろう? 頼むよ」



直也からの突然の頼みごとにに、栞はぽかんとする。

しかし、すぐに状況を理解すると、こう答えた。



「分かりました。私でよければ」

「やった! 僕は来週、朝から研究室にいるから、いつでも空いている時間に来てくれていいから」

「分かりました」



ちょうどその時、栞のマンションの前に到着した。



「あ、ここです。ありがとうございました」

「ここの何階?」

「5階です」

「オートロックなんだね」

「父がオートロックの物件じゃないと駄目だって言ったので」

「お父さんの気持ちわかるよ。ただ、でも、オートロックでも後ろからついてきて強引に入り込んでくる奴もいるから、入る前に一度周りを見回すんだぞ。念には念を入れてね」



直也が父親のように言ったので、栞は思わずクスッと笑った。



「先生! 私、一人暮らしを始めてからもう二年目ですよ! だから大丈夫です!」

「そうかぁ? でも、注意するに越したことはないからね。じゃあまた来週、おやすみ」

「ありがとうございました。おやすみなさい」



そこで二人は別れた。


直也の後ろ姿が人混みに消えて見えなくなるのを見届けたあと、栞はマンションへ入って行った。

その足取りは、とても軽やかだった。

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コメント

39

ユーザー

んふふふふ…園田さん 栞ちゃん通じて新しい出会いありそうな予感が☺️

ユーザー

直也先生しっかり栞ちゃんのバイトの事確認してましたねー たぶん明日はお迎えかな❓ それに家も確認して(*≧∀≦*) それに研究室の片付けまで頼んで何とか栞ちゃんとの時間を確保しようとしてませんか❓ でも一年我慢したんだもんね もう離さないよねきっと(*^^*)

ユーザー

直也先生策士ですなぁ。

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