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放課後の相談室。日下部はプリントをまとめながら、ドアをノックする音に顔を上げた。
「……入れ」
入ってきたのは同じ学年の男子。やたらにニヤニヤしている。
「なぁ日下部、オレ、すげぇ困ってんだ」
「またくだらねぇ話か?」
「いや、今回はマジ。……オレ、好きな人が二人いる」
日下部は目を瞬かせた。
「……は?」
「だから、二人。どっちも可愛いし、話してて楽しいし……。
でもどっちか選ばなきゃって思うと、胃が痛くなる」
日下部は眉間に皺を寄せた。
「知らねぇよ、そんなもん」
「いやいや、お前なら何かアドバイスくれると思って!」
日下部はため息をつく。
「じゃあ聞くけど……おまえ、その二人と一緒にいる時、どっちの時が素で笑えてる?」
「……え?」
「作って笑ってるほうはやめとけ。本音出せるほう残せ」
男子は「なるほどなぁ」と腕を組む。
「でも、どっちの前でも笑ってるんだよなぁ」
日下部は机を軽く叩き、半笑いになった。
「……じゃあ一生悩んでろ」
「おい、雑すぎだろ!」
男子が笑いながら帰っていくと、日下部は小さく首を振った。
「……ほんと、平和な悩みだな」
夕焼けが相談室の窓に差し込み、部屋は少しだけ温かかった。