テラーノベル
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放課後の相談室。ドアが勢いよく開き、息を切らした女子が飛び込んできた。
「日下部くん!たすけて!」
「……え、なに?火事?」
「違う!これから告白なんだけど、心臓が爆発しそうで……死ぬ!」
日下部は椅子を引き、呆れた顔で座らせる。
「……お前、告白するの今日って決めたんだろ?」
「うん……でも急に怖くなって……何話せばいいかわかんない!」
「そりゃ、好きって言えばいいんじゃねぇの?」
「簡単に言わないで!その“好き”が難しいんだってば!」
彼女は机に突っ伏し、机をドンドン叩く。
日下部はしばらく黙って眺め、それからペンを手に取った。
「じゃあ紙に書け。
『好き』って。字にすれば、口に出すより先に頭が慣れる」
「……え、そんなの意味ある?」
「試せ」
彼女は渋々書き、何度も『好き』の字を見つめる。
だんだん表情が落ち着いてきた。
「……あ、ちょっと言えそうな気がしてきた」
日下部は腕を組む。
「な?怖いのは、言葉じゃなくて相手の反応だろ。
でも、お前がちゃんと伝えたら、それはもう“成功”だ」
彼女は目を丸くする。
「……なんか、かっこいいこと言うじゃん」
「おう、だから早く行け。時間ねぇだろ」
「ありがと!成功したら報告にくる!」
バタバタと駆け出していく足音が遠ざかる。
静かになった相談室で、日下部は小さく笑った。
「……ま、振られても生きてるしな」
数日後の放課後。
相談室のドアが、今度は控えめにノックされた。
「……どうぞ」
入ってきたのは、あの日の告白女子。
妙に落ち着いた顔で、でもどこか照れている。
「この前はありがとう。……あのね、ちゃんと告白できたよ」
日下部はうなずく。
「そっか。で、どうだった?」
彼女は少し間を置いて、あっけらかんと言った。
「振られた」
「……そうか」
間を置かず、日下部は椅子から立ち上がった。
「じゃ、勝利祝いだな」
「は?振られたんだよ?」
「お前は、自分が決めたことをちゃんとやった。
ビビって逃げなかった。それは負けじゃねぇ」
彼女は思わず吹き出した。
「なんか……そう言われると、ちょっと誇らしいかも」
日下部は、机の引き出しからコンビニのチョコバーを取り出して放り投げた。
「ほら、勇者への褒美だ」
「安っ!」
「うるせぇ。高級品はまた好きなやつできた時な」
彼女は笑いながらチョコを受け取った。
その笑顔は、あの日の駆け込んできたときよりも、ずっと軽やかだった。
「……じゃ、また来るね。今度は成功報告しに」
「おう。何回でも練習台になってやるよ」
ドアが閉まると、日下部は小さく呟いた。
「振られても、前向く奴は強ぇな」
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