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さぶた@気分屋
101
放課後。
教室にはまだ何人か残っていた。
紬は鞄に荷物を詰めながら、窓の外を見る。
校庭では運動部が片づけをしている。
「紬」
悠生が後ろから声をかけた。
「帰る?」
「うん。蒼真待ってる」
「そっか」
悠生は少し考えるようにしてから、蒼真の席を見る。
「……まだ残ってるな」
「何かあったのかな」
「さあ」
悠生は答えた。
でも、その視線は蒼真から離れなかった。
教室の後ろ。
蒼真は一人で机の中を整理していた。
ノートを鞄に入れる。
筆箱を入れる。
最後に、昼間の紙を取り出す。
小さく折られた紙。
蒼真はそれを開かないまま、しばらく見つめていた。
「蒼真」
悠生が近づく。
蒼真はすぐに紙を鞄へしまった。
「何」
「帰らないの?」
「帰る」
「紬、待ってるぞ」
「分かってる」
蒼真が鞄を持つ。
悠生はその横顔を見る。
「髪」
「何」
「切った理由、本当に邪魔だったから?」
蒼真の手が止まった。
「……何だよ急に」
「いや」
悠生は笑った。
「昔から長かったじゃん」
「だから?」
「急に切ったから」
「気分」
「そう」
それ以上聞かなかった。
蒼真も何も言わない。
二人で教室を出る。
廊下には、まだ生徒が何人かいた。
蒼真は悠生の少し前を歩く。
「悠生」
「ん?」
「さっきの話」
「髪?」
「ああ」
蒼真は振り返らない。
「紬には言うなよ」
「何を?」
「俺が髪切った理由」
悠生は黙った。
「……分かった」
「ありがと」
蒼真はそれだけ言って歩き続けた。
昇降口。
紬が二人を見つける。
「遅い」
「ごめん」
蒼真が靴を履き替える。
悠生も隣で靴を履く。
「悠生も帰る?」
紬が聞く。
「今日はこっち」
悠生は蒼真を見る。
「蒼真と話したいことあるから」
「そっか」
紬は特に気にしなかった。
「じゃあ先帰ってる」
「うん」
蒼真が答える。
「また後で」
紬は一人で校門を出ていった。
二人きりになる。
悠生が口を開く。
「……最近さ」
「何」
「変な紙、届いてない?」
蒼真の表情が変わる。
ほんの一瞬。
「何のこと」
「昼に紬が拾ったやつ」
「……見たの?」
「見てない」
「じゃあ何で分かる」
「お前の顔」
蒼真は黙った。
悠生は続ける。
「去年もあっただろ」
「……」
「机に入ってたやつ」
蒼真は視線を落とす。
「覚えてる」
「最近、また?」
「違う」
「じゃあ何」
「……別に」
悠生はため息をついた。
「その『別に』、最近多いよ」
蒼真は返事をしなかった。
校舎を出る。
夕方の風が冷たい。
しばらく歩いてから、蒼真が言う。
「悠生」
「ん?」
「俺が何か言ったら」
「うん」
「紬には言わないで」
悠生は足を止める。
「それ、前にも言ったよな」
蒼真も止まる。
「……そうだっけ」
「言った」
「なら、今回も同じ」
悠生は蒼真を見る。
「何でそんなに紬に知られたくないの」
蒼真は答えない。
「紬、何も知らないぞ」
「だからだよ」
「……え?」
蒼真は少しだけ顔を上げる。
「知らないままでいい」
その声は、いつもの蒼真よりずっと小さかった。
「何も知らない方が、あいつは普通に俺と話せるから」
悠生は何も言えなくなる。
その夜。
紬は自分の部屋で、昼間のことを思い返していた。
蒼真が紙を見たときの顔。
あれは何だったんだろう。
気になる。
でも、聞くほどのことでもない気もする。
兄弟だからといって、全部知っているわけじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
同じ頃。
蒼真は自室で、昼間の紙を机の上に置いていた。
まだ開いていない。
指先が紙の端に触れる。
開く。
そこに書かれていたものを見て、蒼真は目を伏せた。
紙を折り直す。
引き出しを開ける。
その奥へ入れる。
そして、しばらく動かなかった。
やがて小さく息を吐く。
「……もう、やめてくれよ」
誰に向けた言葉なのか。
蒼真自身にも分からなかった。
コメント
1件
んー、今回は蒼真の内面が結構見えた回だったな。髪切った理由を悠生にだけチラッと見せて、紬には言うなって... あの「知らないままでいい」って台詞が胸に刺さったわ。兄弟だからこその距離感、あるよな。ラストの「もうやめてくれよ」も、誰に言ってるんだろうって気になる。続きが気になるエピソードだった🔥