テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
蒼真の異変にいち早く気づくのが悠生なのが、もう切なすぎる……。「お前が一人で抱えてるから」って言葉、めちゃくちゃグッときました。蒼真の「頼むから、今は何も聞かないで」の弱さが胸に刺さる😭 紬がまだ気づいてないのも、かえって怖くて。見えてるのはほんの一部って終わり方、エモすぎます。悠生、どうか蒼真を守ってあげて……! 次が気になりすぎる!!
その日から、蒼真の様子を気にするようになったのは、紬ではなかった。
悠生だった。
朝。
教室に入ると、蒼真はもう席にいた。
机の上には教科書。
手にはシャープペン。
いつも通り。
「おはよう」
悠生が声をかける。
「おはよう」
蒼真も普通に返す。
それだけなら、何も変わらない。
けれど。
悠生は蒼真の机の横に立ったまま、少しだけ様子を見る。
「何?」
「いや」
「何だよ」
「寝不足?」
蒼真が一瞬だけ目を逸らした。
「そんなことない」
「そう?」
「そう」
悠生はそれ以上聞かなかった。
一時間目。
蒼真はいつも通り授業を受けていた。
二時間目も。
三時間目も。
紬から見れば、何もおかしくない。
昼休みになれば友達と話しているし、先生に頼まれれば普通に返事をする。
たまに笑う。
紬はそんな蒼真を見て、少し安心していた。
昨日、悠生と何を話していたのかは知らない。
でも、蒼真は今日も普通だ。
それでいいと思った。
昼休み。
紬が給食を食べていると、蒼真が通りかかった。
「紬」
「ん?」
「今日、帰り遅くなる」
「何で?」
「先生に頼まれた」
「じゃあ先帰る?」
「うん」
「分かった」
それだけ。
蒼真は教室の外へ出ていった。
紬は給食へ視線を戻す。
「……最近、蒼真忙しいな」
独り言のように呟く。
向かいにいた悠生が箸を止めた。
「そうだな」
「何か知ってる?」
「……少し」
「何?」
悠生は答えに迷う。
「本人に聞いた方がいい」
「そっか」
紬はそれ以上追及しなかった。
放課後。
紬は先に帰ることにした。
昇降口を出て、校門へ向かう。
その途中。
校舎裏から声が聞こえた。
「……だから、無理だって」
蒼真の声だった。
紬は足を止める。
誰かと話している。
もう一人の声は聞き取れない。
「返してよ」
蒼真の声がする。
紬は少しだけ迷った。
でも、すぐに歩き出した。
兄が誰かと話している。
それだけだと思った。
校舎裏。
蒼真は一人だった。
さっきまでそこにいた男子たちは、もういない。
足元には、紙が一枚落ちている。
蒼真はそれを拾う。
握りしめる。
そして、ポケットへ入れた。
少し離れた場所。
悠生が立っていた。
蒼真は気づく。
「……いつからいた?」
「今来た」
「嘘」
「半分くらい」
蒼真はため息をつく。
「帰れよ」
#百合
うあな
565
#ゆあんくん
モコビリ ❨低浮上❩
36,645
「一緒に帰ろうと思って」
「紬は?」
「先に帰った」
蒼真は少し黙る。
「……そっか」
「なあ」
悠生が近づく。
「何された?」
「何も」
「またそれ?」
「本当に何もない」
悠生は蒼真の手を見る。
強く握りしめている。
「手、痛くなるぞ」
蒼真は気づいて、ゆっくり力を抜いた。
「……大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、その紙は?」
蒼真は黙る。
「見せて」
「嫌だ」
「何が書いてある?」
「関係ない」
「俺には関係ある」
蒼真が顔を上げる。
「何で」
「お前が一人で抱えてるから」
その言葉に、蒼真の表情がわずかに揺れる。
でも、すぐに目を逸らした。
「……悠生」
「ん?」
「頼むから」
少し間があった。
「今は、何も聞かないで」
悠生は黙った。
蒼真は紙をポケットへしまう。
「帰ろう」
「……分かった」
二人で歩き出す。
その頃。
紬は家の前に着いていた。
鍵を開ける。
玄関に入る。
ふと、靴を脱ぎながら振り返った。
いつもなら、蒼真が少し遅れて帰ってくる。
今日はまだ帰っていない。
「……遅いな」
そう呟いた。
それだけだった。
まだ紬は知らない。
自分が見ている蒼真は、蒼真のほんの一部分でしかないことを。