テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
相談室の椅子に、相談者はだらしなく腰を落とした。
鞄は床に置いたまま。上着も脱がない。
「今日、やけに静かだな」
蓮司が言う。
机に向かったまま、振り返りもしない。
「家が」
相談者はそれだけ言って、言葉を探す。
「誰かいた?」
「いたよ。全員」
「なるほど」
蓮司はそれ以上聞かない。
「でもさ」
相談者が続ける。
「話す相手、いないんだよね」
「ケンカ?」
「しない」
「無視?」
「それも違う」
相談者は天井を見る。
「存在してない感じ」
蓮司はペンを回すのをやめた。
「家で?」
「家で」
「学校より?」
「うん。学校のほうが、まだ役割ある」
「皮肉だな」
相談者は苦笑する。
「怒られもしないし、褒められもしない」
「成績は?」
「数字だけ見られる」
「途中は?」
「興味ない」
少し間が空く。
「家にさ」
相談者は指を組む。
「期待してたんだと思う」
「何を」
「安心。味方。弱っていい場所。話を聞いてもらえるとこ」
一息で言い切って、黙る。
蓮司はそれを否定しなかった。
「全部そろってる家も、ある」
「……あるんだ」
「ある。でも」
蓮司は少し考えてから続ける。
「最初から、その役割を持たない家もある」
「俺の家が?」
「可能性高い」
相談者は顔をしかめる。
「じゃあさ」
「うん」
「俺がダメだからじゃない?」
「違うとは言わない」
「え」
「でも原因じゃない」
相談者は黙る。
「仕様の問題」
蓮司は淡々と言う。
「そこで回復しようとすると、削れる」
「じゃあどうすればいい」
「切り替える」
「家を?」
「役割を」
蓮司はようやく相談者を見る。
「家は生活拠点。回復拠点じゃない」
「冷たくない?」
「期待し続けるほうが、よっぽど冷える」
相談者は小さく息を吐いた。
「俺さ」
「うん」
「家にいると、背景になる」
「家具寄り?」
「そう。それ」
蓮司は少し笑った。
「家具は悪くない」
「でも、喋らない」
「喋らなくていい場所も、必要だろ」
「……でも」
「?」
「味方、欲しかった」
蓮司はすぐには答えなかった。
「欲しいなら」
「うん」
「場所を分ける」
「ここ?」
「ここも」
「外も?」
「外も」
相談者は少し考えてから言う。
「じゃあ俺」
「うん」
「家で元気なフリ、しなくていい?」
「しなくていい」
「期待もしなくていい?」
「減らせ」
「ゼロじゃなく?」
「ゼロは難しい」
相談者は苦笑する。
「現実的だな」
「高校生だからな」
立ち上がり、相談者は鞄を持つ。
「ここ来るの、逃げだと思ってた」
「違う」
「じゃあ?」
「補給」
相談者は少しだけ、表情を緩めた。
「また来ていい?」
「背景にならないなら」
「ここでは?」
「ならない」
ドアが閉まる。
相談室は相変わらず静かだ。
でも、少なくともここでは
誰かが“いる”前提で、会話が続いていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!