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#執着攻め
かんな
相談者は椅子に座るなり、足をぶらぶらさせた。落ち着かない。
「今日、顔が元気だな」
蓮司が言う。
「そう見える?」
「見える。だから来た?」
「まあ」
相談者は肩をすくめる。
「弱音、吐けない場所が多すぎて」
「学校?」
「それも」
「家?」
「それも」
蓮司は頷くだけで、続きを促さない。
「吐いたらさ」
相談者は声を落とす。
「使われる」
「どう使われる」
「笑いにされる」
「他には」
「都合よく頼られる」
「具体的だな」
「一回吐くと、次から」
相談者は指を折る。
「“大丈夫じゃない人”扱い」
「なるほど」
「だから」
「だから?」
「元気なフリが、最適解になる」
蓮司はペンを机に置いた。
「フリ、うまい?」
「上達した」
「成果は?」
「守られる」
「代償は?」
相談者は一瞬、言葉に詰まる。
「……本当の調子が、誰にも分からなくなる」
「自分にも?」
「たぶん」
蓮司は少しだけ考える。
「なあ」
「なに」
「弱音を吐いた“結果”だけ見てないか」
「結果?」
「利用された、ってやつ」
「事実だし」
「その前は?」
相談者は黙る。
「誰に吐いた?」
「……空気」
「空気?」
「場のノリ」
「人じゃなく?」
「人でもあるけど」
蓮司は肩をすくめる。
「相手、選んでない」
「選べない」
「違う」
「?」
「選ばないで吐く癖」
相談者は眉をひそめる。
「じゃあさ」
「うん」
「選べる相手って?」
蓮司は即答しない。
「三つだけ見る」
「少な」
「十分」
指を一本立てる。
「秘密が守られる」
二本目。
「解決より、理解を先にする」
三本目。
「後で不利に使わない」
相談者は息を吐いた。
「そんな人、少ない」
「だから」
「?」
「少量でいい」
「弱音も?」
「弱音も」
相談者は笑った。
「全部出さなくていい?」
「出し切る必要、ない」
「じゃあ俺」
「うん」
「ここでは?」
「ここは」
蓮司は少し考えてから言う。
「回収されない場所」
「回収?」
「ネタにされない。評価にされない。武器にされない」
相談者は頷く。
「それ、でかい」
「だから人は、場所を分ける。
元気な場所。弱っていい場所。黙る場所」
蓮司は続ける。
「全部同じにしようとすると、壊れる」
「俺、同じにしようとしてた」
「よくある」
相談者は背もたれにもたれる。
「弱音ってさ」
「うん」
「出したら楽になると思ってた」
「期待しすぎ」
「え」
「楽になるために出すと、外れる」
「じゃあ何のため」
「孤立しないため」
相談者はしばらく黙った。
「……使われないためには?」
「量と相手」
「シンプル」
「あと」
「?」
「自分で否定しない」
「どういう」
「吐いたあとに」
「うん」
「“こんなの言う自分、ださい”って思わない」
相談者は苦笑する。
「それ、きつい」
「でも一番効く」
立ち上がり、相談者は鞄を持つ。
「今日、全部は吐いてない」
「知ってる」
「いい?」
「いい」
「ここ、使い切らなくて」
「いい」
ドアの前で、相談者が振り返る。
「なあ」
「なに」
「今日は、弱音」
「うん」
「回収されてない?」
「されてない」
相談者は少しだけ笑った。
「じゃあまた来る」
「どうぞ」
ドアが閉まる。
弱音は、出し方を間違えると刃になる。
でも、置き場所を選べば
ただの荷物として、下ろせる。
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