テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
相談者は椅子に座るなり、足をぶらぶらさせた。落ち着かない。
「今日、顔が元気だな」
蓮司が言う。
「そう見える?」
「見える。だから来た?」
「まあ」
相談者は肩をすくめる。
「弱音、吐けない場所が多すぎて」
「学校?」
「それも」
「家?」
「それも」
蓮司は頷くだけで、続きを促さない。
「吐いたらさ」
相談者は声を落とす。
「使われる」
「どう使われる」
「笑いにされる」
「他には」
「都合よく頼られる」
「具体的だな」
「一回吐くと、次から」
相談者は指を折る。
「“大丈夫じゃない人”扱い」
「なるほど」
「だから」
「だから?」
「元気なフリが、最適解になる」
蓮司はペンを机に置いた。
「フリ、うまい?」
「上達した」
「成果は?」
「守られる」
「代償は?」
相談者は一瞬、言葉に詰まる。
「……本当の調子が、誰にも分からなくなる」
「自分にも?」
「たぶん」
蓮司は少しだけ考える。
「なあ」
「なに」
「弱音を吐いた“結果”だけ見てないか」
「結果?」
「利用された、ってやつ」
「事実だし」
「その前は?」
相談者は黙る。
「誰に吐いた?」
「……空気」
「空気?」
「場のノリ」
「人じゃなく?」
「人でもあるけど」
蓮司は肩をすくめる。
「相手、選んでない」
「選べない」
「違う」
「?」
「選ばないで吐く癖」
相談者は眉をひそめる。
「じゃあさ」
「うん」
「選べる相手って?」
蓮司は即答しない。
「三つだけ見る」
「少な」
「十分」
指を一本立てる。
「秘密が守られる」
二本目。
「解決より、理解を先にする」
三本目。
「後で不利に使わない」
相談者は息を吐いた。
「そんな人、少ない」
「だから」
「?」
「少量でいい」
「弱音も?」
「弱音も」
相談者は笑った。
「全部出さなくていい?」
「出し切る必要、ない」
「じゃあ俺」
「うん」
「ここでは?」
「ここは」
蓮司は少し考えてから言う。
「回収されない場所」
「回収?」
「ネタにされない。評価にされない。武器にされない」
相談者は頷く。
「それ、でかい」
「だから人は、場所を分ける。
元気な場所。弱っていい場所。黙る場所」
蓮司は続ける。
「全部同じにしようとすると、壊れる」
「俺、同じにしようとしてた」
「よくある」
相談者は背もたれにもたれる。
「弱音ってさ」
「うん」
「出したら楽になると思ってた」
「期待しすぎ」
「え」
「楽になるために出すと、外れる」
「じゃあ何のため」
「孤立しないため」
相談者はしばらく黙った。
「……使われないためには?」
「量と相手」
「シンプル」
「あと」
「?」
「自分で否定しない」
「どういう」
「吐いたあとに」
「うん」
「“こんなの言う自分、ださい”って思わない」
相談者は苦笑する。
「それ、きつい」
「でも一番効く」
立ち上がり、相談者は鞄を持つ。
「今日、全部は吐いてない」
「知ってる」
「いい?」
「いい」
「ここ、使い切らなくて」
「いい」
ドアの前で、相談者が振り返る。
「なあ」
「なに」
「今日は、弱音」
「うん」
「回収されてない?」
「されてない」
相談者は少しだけ笑った。
「じゃあまた来る」
「どうぞ」
ドアが閉まる。
弱音は、出し方を間違えると刃になる。
でも、置き場所を選べば
ただの荷物として、下ろせる。