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ドアが開く。
相談者は少し気まずそうに笑った。
「仲いい人ほど、急に離れたくなる……」
蓮司は椅子を引く。
「嫌いになる?」
「そこまでじゃない。
むしろ大事な方」
「じゃあ何が起きてる」
相談者は少し考える。
「近くなりすぎると、急に息苦しくなる」
蓮司は座る。
「で、距離取る」
「返信遅らせたり、誘い断ったり。
一回静かにしたくなる」
少し間。
「相手は気づいてる?」
「多分。
でも理由は言ってない」
蓮司は軽く頷く。
「典型的な“近づきすぎた反動”だな」
相談者は眉を寄せる。
「またそれ?」
「今回はもう少し深い方」
相談者は黙る。
「仲良くなるほど、“相手の中での自分”を意識し始めてる」
「……どういうこと」
「どう見られてるか、
期待外れになってないか、
嫌われたらどうなるか」
相談者は視線を落とす。
「増えてるかも……」
少し沈黙。
「距離が遠い相手には、それ考えなくていい」
「確かに」
「でも近くなると、“失う可能性”が出る」
間。
「だから怖くなる?」
「だから一回、自分から離す」
相談者は黙る。
「壊される前に、自分で距離取ってる動きだな」
長めの沈黙。
「……それ、ある」
蓮司は続ける。
「しかも厄介なのが、
離れてる間はちょっと安心する」
相談者はすぐ頷く。
「そう。静かになる」
「でも時間経つと、今度は離れすぎた気がして不安になる」
「それもある……」
間。
「じゃあどうすればいい」
「“ゼロか百”をやめる」
相談者は苦笑する。
「簡単に言うな……」
「今やってるの、
近づく→苦しくなる→急に切る、だからな。極端なんだよな。
だから“弱く離れる”を覚える」
相談者は考える。
「弱く?」
「返信遅らせるにしても半日。
一週間消えるな」
少し沈黙。
「誘い断るにしても、
次の逃げ道は残す」
「逃げ道?」
「“今週無理だけどまた行こう”とか」
相談者は黙る。
「完全に閉じるから、戻る時もしんどくなる」
間。
「なんかさ」
「何」
「近くなるほど自由じゃなくなる感じする」
「“関係を維持しなきゃ”が増えるからな」
「それ疲れる」
「だから定期的に酸欠になる」
相談者は少し笑った。
「言い方……」
蓮司は気にせず続ける。
「あと、お前ちょっと勘違いしてる」
「何」
「距離取ったら、気持ちが冷めた証拠だと思ってる」
相談者は一瞬止まる。
「……違うの?」
「むしろ逆のこと多い」
間。
「興味ない相手には、わざわざ距離調整しない」
相談者は黙る。
「近いから反動が出る」
少し沈黙。
「でも毎回これやってたら、そのうち離れられそう」
「だから“戻り方”を作る」
「戻り方?」
「少し距離取ったあと、
何事もなかった感じで軽く戻る」
相談者は眉を寄せる。
「それ許される?」
「大体はな。
お前が思ってるほど、相手は細かく採点してない」
間。
「今までは?」
「距離取ったあと、“気まずい”でさらに離れてた」
相談者は深く息を吐く。
「完全にそれ……」
少し静かになる。
「なんか、自分勝手だなって思ってた」
「調整が下手なだけだ」
相談者は小さく笑う。
ドアの前で立ち止まる。
「切るんじゃなくて、弱く離れる」
「それでいい」
ドアが閉まる。
本当にどうでもいい相手には、
距離を測ろうとすらしない。
#読み切り