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乱れた服をなんとか直そうと震える指で襟を引き寄せる。汗と涙と、まとわりつく汚れ。吐き気と一緒に、胸の奥から強烈な自己嫌悪がせり上がってくる。
——終わった、と思った瞬間。
背後から降ってきたのは、冷笑混じりの声だった。
「なぁ、思ったより動き良かったよな」
「だよな。嫌がってるくせに、途中から舌の動かし方とか必死だったし」
「プロかと思ったわ」
遥の手が止まる。耳を塞ぎたいのに、全員の声が刺すように入ってくる。
「でもさ、ちょっと下手くそだったろ。歯当たってたし」
「まあ、練習すればもっと上手くなるんじゃね? 次までに改善点な」
「ハハ、真面目だから覚えるだろ、こいつ」
笑い声が重なり合う。品評会のように勝手に「評価」され、点数をつけられていく。
遥は唇を噛んで、小さな声で絞り出す。
「……違う……俺は……そんな……」
「は? 違うって何が?」
「気持ちよさそうにしてたのお前だろ」
「嫌ならさ、あんな声出すわけねぇし」
遥の喉がひくつく。言葉が出ない。
否定すればするほど、笑い声が追いかけてくる。
「ほら、見ろよ。真っ赤になって。照れてんの?」
「次はもっと声出せよな。どうせ得意なんだろ?」
「上手いって褒めてほしいんじゃないのか?」
全員の視線が突き刺さる。もう穴があれば消えてしまいたい。
「上手い」なんて言葉を突きつけられるほど、遥の中の自己嫌悪は濃く深く沈んでいく。
——俺は、ほんとに汚い。
——なんで反応した。なんで抵抗できなかった。
——やっぱり俺は、みんなの言う通り“そういうやつ”なんだ。
心の中の声が、外の罵声と区別がつかなくなっていく。