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数週間後。
朝、教室に入った紬は、すぐに蒼真に気づいた。
「……あれ?」
蒼真が振り返る。
「何」
「髪」
紬は蒼真の頭を見る。
肩に届いていた髪が、短くなっていた。
「切った」
「なんで?」
「邪魔だったから」
それだけ言って、蒼真は鞄を机の横に掛けた。
紬はまだ見ている。
「似合ってる」
「そう?」
「うん」
蒼真は少しだけ笑った。
「ならよかった」
一時間目が終わった。
休み時間になると、蒼真の周りに何人か集まった。
「髪切ったんだ」
「うん」
「前よりいいじゃん」
「そう?」
「そっちの方が男っぽい」
蒼真は笑った。
「よく分かんないけど」
「前は長すぎたもんな」
「まあな」
紬は少し離れたところから、その様子を見ていた。
みんな普通に話している。
蒼真も普通に返している。
だから、何も気にしなかった。
昼休み。
「蒼真」
紬が呼ぶ。
「ん?」
「今日、一緒に帰る?」
「いいよ」
「じゃあ待ってる」
「分かった」
蒼真はそう言って、また友達との話に戻った。
紬は席へ戻る。
その途中、蒼真の机の横を通った。
机の中から、紙が一枚落ちている。
「蒼真、これ」
拾って渡そうとする。
蒼真が振り返る。
「……それ」
一瞬、顔が強張った。
「何?」
「いや」
蒼真は紙を受け取る。
「ありがとう」
「うん」
紬は紙を見なかった。
何が書いてあるのかも気にしなかった。
ただ、蒼真がいつもより早く紙を折って、鞄の奥へしまったことだけが少し気になった。
放課後。
約束通り、二人で学校を出る。
「髪、短くなったら涼しそう」
紬が言う。
「そうでもない」
「そう?」
「首が寒い」
「それは分かる」
二人で笑う。
しばらく歩く。
「でもさ」
紬が言う。
「前の髪も好きだった」
蒼真の足がほんの少しだけ止まる。
「……そう」
「うん」
「ありがと」
声が小さかった。
紬は気づかず、そのまま歩く。
家に着く。
玄関で靴を脱ぐ。
「蒼真」
「ん?」
「今日、何かあった?」
蒼真が振り返る。
「何も」
「そっか」
「なんで?」
「なんとなく」
蒼真は少し黙ってから笑った。
「変なの」
「何が」
「紬が」
「ひどい」
二人で笑う。
それで終わった。
夜。
紬はベッドに寝転がりながら、昼間のことを思い返していた。
髪を切ったこと。
紙を見たときの蒼真の顔。
ほんの一瞬だけ、変だった。
でも。
「何もない」と言っていた。
だから、何もないのだろう。
そう思って、紬は目を閉じた。
まだこの頃の紬は知らなかった。
蒼真が「何もない」と言うときほど、何かを隠していることを。
そして。
その「何か」を、悠生だけが少しずつ感じ始めていた。
コメント
1件
みぅだよ🤍 髪切った蒼真、めっちゃ似合っててよかったね…!でも机から落ちた紙のときの一瞬の強張り、あれ気になる。紬は「何もない」って信じてるけど、読んでるこっちはちょっと胸がざわつくんだよね。悠生だけが気づき始めてるって最後の一文、すごく効いてる。日常の小さな違和感が、これからどう転ぶのか…続きが気になる一話だったよ🌙
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さぶた@気分屋
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