テラーノベル
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お見合い当日、司の前に立った沙夜は、どこかぎこちない笑顔を浮かべていた。
柔らかなベージュのワンピースに身を包み、長い髪にはゆるやかなウェーブ。
その佇まいは、上品で初々しい。
「沙夜さん……ですね?」
司はラウンジのソファから静かに立ち上がり、穏やかな笑みを向けた。
その瞬間、沙夜の胸がどきりと跳ねる。
背の高い沙夜より、さらに頭ひとつ分は高い――185センチほどだろうか。
仕立ての良いグレーのスーツに、落ち着いた色のネクタイ。
お見合い写真よりもはるかに整った容姿で、まるでモデルのように周囲の視線をさらっていた。
「初めまして、西園寺です。本日はお時間をいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……」
二人はラウンジのソファに向かい合って座り、コーヒーが運ばれてくると、互いのことを少しずつ語り始めた。
「沙夜さんも、実のお母様を幼いころに亡くされているとか?」
「え……? ということは、西園寺さんもですか?」
「はい。うちの父は再婚せずに、ずっと一人ですが」
「そうでしたか。うちの父は、二十年前に今の母と再婚しました」
「義理のお母様……とは?」
「多少遠慮はありますが、まあ、普通に。父を支えてくれている義母には、とても感謝しています」
「良いご関係を築かれているようで、よかったですね」
「はい……」
実際には、司が想像するほど親密ではなかったが、沙夜はあえて否定しなかった。
そんな中、司がふいに核心へ踏み込むような言葉を口にした。
「沙夜さんは、このお見合いの意味を理解しておられますか?」
「もちろんです」
沙夜の返事に、司は軽くうなずいた。
「率直に言えば、これは政略結婚です。それでも問題ありませんか?」
突然の直球に驚きつつも、沙夜は素直に答える。
「幼いころから、いずれはこうなると聞かされていましたので……大丈夫です」
「それは心強い。では、どうです? 私と実際に会ってみて、結婚できそうだと思いましたか?」
父から“粗相のないように”と言われていた沙夜は、覚悟を決めて口を開いた。
「はい。西園寺さんの方こそ、私でよろしいのでしょうか?」
司はわずかに微笑み、落ち着いた声で答えた。
「もちろん。では、このお見合いは成功ということでよろしいですね?」
「……はい」
沙夜は両手をぎゅっと握りしめながら返事をした。
その瞬間、三国怜央の爽やかな笑顔がふっと脳裏をよぎる。
けれど、すぐにその面影を振り払い、沙夜はまっすぐ司を見つめた。
そんな沙夜の様子を見て、司は一瞬だけ視線を落とし、何かを思案するような表情を浮かべる。
そして、静かに口を開いた。
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「私たちの結婚は、形の上では政略結婚です。しかし――だからといって、あなたをないがしろにするつもりはありません。どうか、私を信じてついてきてくれますか?」
吸い込まれそうな瞳を前に、沙夜ははっきりと答えた。
「はい。よろしくお願いいたします」
沙夜の返事に、司はほっとしたように表情を緩める。
「では、今日から私たちは婚約者同士ということで……よろしいですね?」
「……はい」
「ありがとう。では、行きましょう」
「えっ? どこへですか?」
「少し落ち着いて話ができる場所へ」
その言葉に、沙夜は思わず瞬きをした。
「えっと……ここではダメなのですか?」
戸惑う沙夜を見て、司は柔らかく笑う。
「私は、必要以上の段階を踏むのはあまり好きじゃないんですよ。結婚を前提とする以上、少しでも早くお互いの理解を深めたほうがいいと思いませんか?」
「理解……ですか?」
「あなたのご家族も、私の家も、早く安心したいと思っている。二つの家族の結びつきを確かなものにするためにもね。意味は分かりますよね?」
その瞬間、沙夜の頭が真っ白になった。
もちろん、結婚すれば責任が伴うことは理解していた。
だが、初めて会った日に、そこまで踏み込んだ話になるとは思っていなかった。
「で、でも……私たち、今日会ったばかりで……」
「会ったばかりですが、結婚の約束を交わしましたよね?」
「それは、そうですが……」
「嫌なら、この話はなかったことにしても構いません」
思いがけない言葉に、沙夜は息を呑んだ。
(もし今ここで断ったら、彼は別の相手を探すということ?)
混乱する頭で必死に考える。
そして、この縁談が破談になったとき、父がどれほど落胆するかを想像した。
兄を亡くした沙夜の実の母は、絶望のあまり病に伏し、その二年後にこの世を去った。
相次いで妻と息子を失った父は、深い悲しみの底に沈んでしまう――
もうあんな父の姿を二度と見たくはなかった。
父を喜ばせたい。
その一心で、沙夜は小さく息を吸い、覚悟を決めた。
「……分かりました。あなたのお考えに従います」
「ありがとう。では、行きましょう」
司は立ち上がり、沙夜に腕を差し出す。
沙夜は震える手でその腕にそっとつかまり、司に導かれるまま、ホテルの上階へと向かった。
コメント
23件
政略結婚と宣言された沙夜ちゃんの気持ち😢でも父親の事を思って受け入れる健気な沙夜ちゃん😢 この後愛は無いのに子供出来てどうなるのかな😢気になります
沙夜ちゃんの心の中に別の人がいることに気づいたのからなのかしら…!? 沙夜ちゃんが断れないのを分かっていて、お見合い当日に上階の個室に誘い込もうとするなんて… 何だかちょっと心配ですよね💦 ちゃんと大切にしてくれる人だと良いのですが…😔
司さーん。いきなりですか😂わたくし、さよちゃん同様心の準備が😖 心の中に違う人がいることにピーンときたよね。。司さん。負けん気の単なる独占欲だったら、イヤだな。。明日も楽しみ😆