テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後の廊下。
静けさの中で、スマホのシャッター音だけがやけに響いた。
「おい見た? これ」
男子の笑い声が階段裏にこだまする。
「女子に囲まれてビビってる遥。顔、マジでやばい」
「こいつ、マジで何もできねぇんだな。かわいそ。いや、ウケるわ」
画面には、昼休みのあの光景——
女子たちに囲まれ、壁に追いやられた遥の姿。
震える肩。
うつむく表情が拡大され、フィルターまでかけられている。
「なあ、これクラスグループに流していい?」
「いいだろ。本人じゃ止められねーし」
「てか女子も喜ぶぞ、“そういう扱い”って決まったみたいだし」
数秒後、通知音がクラス中に走る。
《昼の遥》という題名で、数枚の写真が拡散された。
チャット欄には「やば」「何これ笑」「女に囲まれて震えてんじゃん」「ほんと無理」という文字が連なる。
遥のスマホにも届いていたが、彼は開くことすらできず、机の中に押し込んだ。
翌朝。
教室に入った瞬間、空気が凍っているのに気づいた。
女子たちは既にまとまって座り、遥を見た瞬間にわかりやすく表情を変える。
美桜が立ち上がり、クラス全体に聞こえる声で言った。
「昨日の見たよね、みんな。ほら、写真のやつ」
すぐに笑いが広がる。
男子も女子も、同じ方向に笑う。
美桜は遥を指さした。
「こいつ、こういう扱いでいいよね? だって、何されても何も言わないし」
遥の心臓が一瞬止まったように感じた。
言葉が喉につかえて出てこない。
「反論ある?」
美桜がゆっくり近づいてくる。
「……ない……」
絞り出すような声だった。
美桜は満足そうに笑い、クラスに向き直った。
「ほら。本人も“ない”って。だから今日から、邪魔にならないように隅にいてくれればいいよ」
クラスがざわつく。
笑い。囁き。嘲り。
男子が調子に乗って言う。
「じゃあ、女子専用の雑用係ってことで?」
「いいね。荷物持ちとか、掃除とか」
女子も容赦なく言葉を重ねる。
「女子の邪魔しないでくれるなら、それでいいよ」
「声も小さいし、空気みたいで便利じゃん」
「あ、空気より価値ないか」
美桜は遥の前に立ち、静かな声で問いかける。
「ねえ、これで困ることある?」
「……別に……」
「ほら。聞いた? “別に”だって」
その瞬間、女子全員が安心したように笑い、
“遥を下に置く”ことをクラス全体で共有した。
美桜は教科書を遥に突きつけた。
「じゃ、今日の授業プリント全部取ってきて。先生に言えばくれるから」
「……わかった」
「“はい”でしょ」
「……はい」
周りの女子がクスクス笑う。
「ほんと、言えば何でも聞くんだ」
「言わせたら簡単じゃない?」
「男なのに、女子の命令に逆らえないってさ……どういうことなの?」
遥の耳が熱くなる。
恥かしさというより、何をしても逃げられない詰みの熱。
美桜がさらに近づく。
「ねえ、写真消してほしい?」
遥は一瞬だけ視線を上げた。
「……消してほしい……」
「へえ」
楽しそうに笑う。
「じゃあ、もっとお願いして?」
教室の中心で、女子たちが笑っていた。
嘲笑でも、侮蔑でも、苛立ちでもない。
“自分たちが正しい位置にいると確信する笑い”。
遥は声を絞り出した。
「……お願いします……消してください……」
女子全員が拍手した。
「ほら、やっぱりこういうの似合うよね」
「本当に、下のままでいてくれなきゃ困るんだよ」
その日から、
女子たちは笑顔のまま遥を“雑用”“玩具”“扱っていい存在”として扱うことが、
クラスの当然のルールになった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!