テラーノベル
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帰ってきた瞬間に分かる。
今日は、長い。
音で分かる。
テレビはついてる。
でも、人の気配が近い。
「遅かったな」
奥から声。
機嫌がいいわけじゃない。
悪いわけでもない。
一番長くなる時の声。
「こっち来い」
鞄を置く前に言われる。
手に持ったまま、動く。
「それ置くな」
止められる。
理由はない。
持ったまま立つ。
数秒。
何も言われない。
でも、動けない。
「学校どうだった」
またそれ。
毎日同じ。
でも、毎回違う。
「……普通」
言い終わる前に、頬に衝撃が来る。
音が遅れてくる。
体が少しずれる。
「普通って何だよ」
すぐに次が来る。
同じ場所。
さっきより強い。
「ちゃんと話せって言ってるよな」
言葉は穏やかに近い。
でも、間を与えない。
「……問題なかった」
選び直す。
それでも足りない。
胸元を掴まれる。
引き寄せられる。
距離がなくなる。
「その顔で?」
逃げられない距離。
視線も逸らせない。
「外で何してきたか知らないと思ってる?」
知られてるかどうかは関係ない。
“知られてる前提”で進む。
沈黙。
それが一番短い。
でも、正解じゃない。
腹に入る。
一発。
息が抜ける。
音が出る前に、次が来る。
「黙るなよ」
もう一発。
さっきより低い位置。
呼吸が乱れる。
整える前に、また。
リズムがある。
間を与えない。
「返事」
短い命令。
「……ごめん」
反射で出る。
「何が」
即座に返る。
「全部か?」
逃げ道を塞ぐ聞き方。
「……ちゃんと出来てない」
「何を」
続く。
終わらない。
「……全部」
やっと出す。
それで、少しだけ間ができる。
でも終わらない。
「そういうとこなんだよ」
突き放す声。
正解を出しても、終わりにはならない。
「一回で終わらせろって言ってるよな」
また来る。
今度は横から。
バランスが崩れる。
床に手がつく。
冷たい。
「立てよ」
すぐに言われる。
遅れると、肩を蹴られる。
立つしかない。
かんな
123
7,847
たては
5
「ほら」
壁際に追い込まれる。
逃げ場はない。
距離が詰まる。
「覚えろよ」
低い声。
次の一発が来る前に分かる。
避けられない。
受けるしかない。
音が重なる。
同じ場所じゃない。
ずらしてくる。
残るように。
「外でどうでもいいけどな」
続く。
「ここでは違うだろ」
その一言で、全部が正当化される。
繰り返される。
形を変えながら。
強さを変えながら。
でも止まらない。
途中で、水を飲めと言われる。
コップを持つ手が震える。
少しこぼれる。
それだけで、また戻る。
「ちゃんと持てよ」
理由になる。
どんな小さなことでも。
時間が伸びる。
終わるタイミングは決まってない。
向こうが飽きるまで。
それだけ。
やっと手が離れる。
「もういい」
軽い声。
本当に終わりの時だけ、軽くなる。
遥はその場に立っている。
動く指示がないから。
「片付けとけ」
それで解放。
意味のない作業が渡される。
それをやることで、“さっきまで”がなかったことになる。
一人になる。
音が戻る。
テレビの音だけが残る。
体のどこが痛いか、はっきりしない。
全部が同じ重さで残っている。
(次は外さない)
考えが固定される。
原因は一つじゃない。
でも、結論は一つになる。
ここでは、間違えない。
外でどうなっても。
コメント
1件
ああ……これ、読んでて胸がぎゅっとなりました。帰宅した瞬間の“長い日”の空気感が、音や間の取り方でひしひしと伝わってきて。正解を出しても終わらない、“覚えろよ”という低い声——避けようのない暴力のリズムが、読んでるこっちの息も苦しくさせるんです。最後の「次は外さない」が、守るのか諦めなのか分からないまま心に刺さりました。ruruhaさんの描く“逃げ場のなさ”の描写、本当に巧みです。