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午後の放課後、校庭の隅に残る小道を湊は歩いていた。 落ち葉を踏む感触に、幼い頃の足音が重なる。
陸と二人でかけまわった、あの秘密基地のある場所へ向かう。
角を曲がると、先に陸の姿があった。
黒いパーカーを深く被り、バイクにまたがる影。
目が合う瞬間、湊の胸がわずかに跳ねる。
陸はちらりとこちらを見たが、すぐに視線を逸らす。
――昔の笑顔はどこに行ったのだろう。
「……まだ、覚えてたんだ」
低い声。反射的に湊は体を止める。
陸は短く肩をすくめただけで、何も言わず前を向く。
沈黙が、かえって昔の距離を思い出させる。
湊は歩幅を合わせ、ゆっくり近づく。
「この道、覚えてるか?」
微かに笑みを浮かべ、落ち葉を蹴る。
陸はふっと肩の力を抜き、板に腰かけた。
「……覚えてるよ、うるさいルール作ってたよな」
その声は低いが、少しだけ柔らかさが含まれていた。
湊はベンチの隣に座る。膝に落ち葉が散る。
「なんでこんなところ、まだ残ってるんだろうな」
口に出すと、自然と笑みがこぼれた。
陸は視線を遠くの木々に落としたまま、短く息を吐く。
「……あの頃は、毎日が無駄に楽しかったな」
声には懐かしさと少しの痛みが混ざる。
湊はそれを見て、昔の自分と今の自分が、同じ時間軸に存在している奇妙さを感じた。
「……俺たち、あの頃みたいに、また無邪気に笑えるのかな」
湊は小さな声で呟く。
陸は視線を戻すことなく、ただ静かに肩をすくめる。
でも、微かに距離が縮まったことは、湊にも陸にも確かに感じられた。
夕日が二人の影を長く伸ばす。
「……また来るか」
陸の声は短く、無表情に近い。
「うん」
湊も短く応じる。互いに言葉少なでも、心は昔より少し近くにある。