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掃除当番を終えた大地は、教室のドアを勢いよく開け放った。
「隼人ー! 図書室で勉強しようぜ! テスト前だし!」
隼人は片眉を上げる。
「お前が勉強って、雪でも降るのか?」
「人聞き悪いな! 俺だってテストの前は本気だぞ」
二人が図書室に足を踏み入れると、夕暮れの光が静かに差し込んでいた。
しんとした空気。ページをめくる音だけが心地よく響く。
「おお~……静かすぎて耳がキーンってする」
「図書室だからな」
「ふむ、試しに俺の渾身のギャグを一つ――」
「やめろ。秒で追い出される」
小声でやり取りしながら窓際の席に座る。隼人が参考書を開き、大地もノートを取り出した。
だが数分後――。
「なあ隼人、これ見ろ」
大地が差し出したのは『世界の珍獣図鑑』。
「勉強しろ」
「ほらこれ、モフモフすぎる! あ、これ俺に似てない?」
「似てねえ」
小声ながら笑いをこらえきれない大地の肩が震える。
案の定、図書委員が静かに近づき、「静かにしてください」と冷たく一言。
「す、すみません!」
大地は慌てて頭を下げる。隼人は苦笑しつつも、大地の背中をそっと押して席に戻した。
やっと集中……と思ったのも束の間、今度は大地が机に突っ伏した。
「もー無理。文字がダンスしてる」
「まだ10分も経ってねえ」
「うう……隼人、教えてくれ」
仕方なく隼人は椅子を寄せ、ノートを覗き込む。
「ここは公式をこう代入して――」
顔を近づけた瞬間、大地の髪がふわりと頬に触れた。
隼人の心臓がドクン、と跳ねる。
「へえ~なるほどな! 隼人、先生みたい!」
「……ほら、ここ次解いてみろ」
平静を装いながらも、隼人の耳まで赤くなる。
その後も大地はケラケラ笑いながら問題を解き、時おりくだらないことを囁いては隼人に突っ込まれる。
気づけば外は群青色。
「お、もうこんな時間か。楽勝じゃん! ……ん?」
「何が楽勝だ」
「だって楽しかった!」
「……勉強じゃなくて俺と一緒にって意味か?」
「もちろん!」
何のてらいもない笑顔に、隼人は思わず視線を逸らした。
「バカ……」
心の奥で、図書室の静寂に似た、温かい何かが広がっていくのを感じながら。