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「……スイッチ入ってるよ、それ」
「え?」
昼休み。放送室に機材を返しに来ただけのはずだった大地は、興味本位でマイクに顔を近づけていた。
指でボタンをカチカチいじっていたら、赤いランプが光った瞬間――
「テステス、こちら地球防衛隊! 怪獣発見!」
教室にいた全校生徒へ、その声が響き渡った。
「お、お前! いま全校に……!」
隼人が慌てて大地の口を塞ぐ。
しかし、もう遅い。スピーカーからは二人のやり取りが丸聞こえだ。
『え、誰?』
『また大地じゃない?』
校舎中がざわつく。
「な、なんで押したんだよ!」
「押してないってば、ちょっと触っただけ!」
「それを押したって言うんだ!」
隼人がスイッチを切ろうと機材に手を伸ばすが、なぜかカチリと戻らない。
「ロックかかってる? どうやって切るんだこれ!」
「防衛隊の任務、失敗の危機だな!」
「笑ってる場合じゃねぇ!」
焦る隼人をよそに、大地はマイクを奪い取った。
「えー、ただいま臨時ニュース。隼人くん、顔が真っ赤でーす!」
『きゃー!』
『隼人くん!?』
教室から歓声が上がる。
「お前っ……!」
隼人は大地の背後から腕を伸ばし、マイクを取り返そうとする。
しかし大地がひょいと身をかわすたび、二人の距離はどんどん近づく。
放送室の狭さも手伝って、ついには背中に隼人の胸が当たった。
(ち、近……!)
思わず耳まで赤くなる隼人。
そのまま手を伸ばした拍子に、ついにスイッチがオフに。
シーン……。
やっと音が止まった。
「……終わった?」
「多分……」
二人はしばらく沈黙した。
廊下から聞こえてくる笑い声が、逆に大きく感じられる。
隼人はため息をつき、しかしすぐ顔をしかめた。
「お前な、マジで心臓に悪い……」
「でもさ、全校に隼人の声、かっこよく響いたよ?」
「黙れ!」
大地はにっと笑い、いたずらっぽくウインク。
隼人は頭を抱え、諦めたように天井を仰いだ。
――この転校生、本当に一瞬も退屈させない。
放課後、校内の掲示板にはすぐ「今日の防衛隊速報」と手描きポスターが貼られ、
大地と隼人はまたしてもみんなの話題の中心になったのだった。