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教室のざわめきは、好奇心と残酷さで満ちていた。誰かが笑いながら声をあげる。
「なあ遥、そんなに何度もされてて……気持ちよかったりしたんじゃないの?」
一瞬、時間が止まる。遥の喉が音を立てずに動き、顔が青ざめる。
「……ちが……そんなわけ……」
かすれる声は、最後まで続かない。
「ほら、声詰まってんじゃん。図星か?」
「気持ちよくなかったって言えるのかよ。どうせ上手にやってただろ。フェラとか、身体使ってさ」
教室の端から笑いが漏れる。質問は遊び半分の調子で、だが突き刺さる棘のように遥を抉る。
「……やめろ」
「やめろ? なんで? 俺たち点稼ぎしてんだよ。ちゃんと答えろよ。そうじゃなきゃ──」
誰かが、にやにやしながら日下部の名を持ち出そうとする。その気配だけで、遥の心臓が跳ねる。
「……俺……気持ちよかったわけじゃ……ない……」
唇が震える。誰も信じてはいない。
「じゃあ何でそんなに壊れてんだよ。依存症なんじゃないか? されなきゃ生きられないとか」
「そうそう、セックスしてないと落ち着かないとか? お前、そういうタイプに見える」
「で、上手いんだろ? 慣れてんだから」
嘲笑、揶揄、勝手な想像。
遥の耳にこびりついて離れない。
「……俺は……ただ……」
言葉を探す。けれど探すほどに、頭の中では晃司や颯馬の顔、夜の感触、無理やり笑わされた過去が蘇る。耐えきれず唇を噛む。
「答えろよ。『気持ちいい』って言えないなら、もっと別のこと言えよ。さもなきゃ──」
また日下部の名がちらつく。
遥は、心臓を掴まれるような感覚に震えた。逃げ場はない。自分が口を開けば、それは「証拠」になり、嗤いを生む。沈黙すれば、日下部が狙われる。
彼の正直さは、もはや自分のためではない。
守るために、吐き出すしかない。
「……上手いとか……そんな……言われて……無理やりやらされただけで……」
声は掠れて震える。教室には、それを面白がる拍手混じりの笑いが響いた。
「ほらな。やっぱそういう“役”なんだよ、お前は」
「壊れ役だろ? それで点になるんだから、ありがたく思えよ」
笑いが続く。遥の胸の奥で、自己嫌悪がまたひとつ深く沈んだ。