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翌朝、沙夜はほとんど眠れぬまま目を覚ました。
妊娠していないのに妊娠しているふりをして家族と過ごす時間は、胸が締め付けられるほど苦痛だった。
それでも、昔と同じ自分を演じなければ未来が変わってしまう――そう思うと、今は嘘をやめることができなかった。
もし未来が変われば、もう二度と我が子に会えなくなる気がしたのだ。
この日は休日で、家族三人は少し遅めの朝食を囲んでいた。
沙夜がサラダを口に運んだとき、父・稔がふと尋ねた。
「沙夜……つわりは大丈夫なのか?」
妊娠していないため普段どおりに食べていた沙夜は、心臓がドキッとする。
「え、ええ……今のところ大丈夫よ、お父さん」
「そうか。それなら安心だな。しっかり食べて、元気な子を産まないとね」
稔は上機嫌で言い、美智子も微笑みながら頷いた。
(どうしよう……このまま嘘を続けても、いつか必ずバレてしまう……。そのとき未来はどうなるの? もう一人の私――司さんとお見合いした私は、どうなってしまうの?)
不安が胸に押し寄せる。
そんな娘の心を知らぬまま、稔が続けた。
「それにしても、驚いたよなあ」
「何が驚いたの?」
「いや……西園寺コンチェルンの御曹司が直々に、お前との見合いを望んできたんだからな」
「えっ?」
沙夜は思わず声を漏らした。
驚く娘に気づかず、稔は美智子に同意を求める。
「驚いたよなあ、美智子」
「ええ、本当に」
「今だから言うが……お前の見合い相手には何人か候補がいたんだ。その中に司君もいた。ただ、あれほどの人物だ。こちらから働きかけても話は進まないだろうと思っていた矢先に、向こうから申し込みが来たんだからなあ。本当に驚いたよ」
「本当にびっくりしましたね。でも、これも縁だったのでしょう」
「そうだな」
しみじみと頷く両親を見つめながら、沙夜は胸の内でつぶやく。
(司さんは、私に好きな人がいると勘違いしたまま……それでもお見合いを申し込んでくれたんだ)
ぼんやりと考えていた沙夜に、稔が言葉を続ける。
「まあ、そういうことだから、お前は堂々と胸を張って嫁に行きなさい。望まれて結婚するんだ。こんな幸せはないぞ」
「……はい」
部屋に戻った沙夜は、これからどうすべきか悩み続けた。
嘘を演じ続ければ、いつか歪みが生じる。
何かの拍子に、この世界の沙夜と自分が入れ替わるかもしれない――そんな淡い期待もあったが、もしそうなれば今の自分の意識は消えてしまうのだろうか。
そう思うと、恐ろしくて胸が苦しくなる。
(私は絶対に現実世界へ戻らないと……! でなければ、あの子はどうなってしまうの……)
その思いは日に日に強くなっていった。
もう一度現実世界へ戻り、産んだまま残してきた我が子と夫と三人でやり直したい――
その願いが、沙夜の胸を占めていく。
(そうよ! 思い切って司さんに話しかけてみたら? 陰から見ているだけじゃなくて、接触してみれば何かが変わるかもしれない。もしかしたら、私に気づいてくれるかもしれないし……)
そんな簡単なことを、どうして今まで試さなかったのだろう。
一分一秒でも無駄にしたくない沙夜は、すぐに行動に移した。
(今日はたしか休日出勤しているはず……)
ならば会社の前で待てば会えるかもしれない。
沙夜は急いで身支度を整えた。
昼前、沙夜は道路を挟んで司の会社の前に立っていた。
もうじき昼食に出てくるかもしれない。
そう思い、辛抱強く待ち続ける。
休日の本社ビル前は人影もまばらで、車もほとんど通らない。
しばらくすると、エントランス横の通用口が開いた。
(司さん?)
期待したが、出てきたのが警備員だったので、沙夜は肩を落とした。
(今日は来ていないのかも……だったらマンションに行けばよかった)
司が独身時代に暮らしていたマンションの住所は知っている。
沙夜は踵を返し、そちらへ向かおうとした。
そのとき、ビルの方から笑い声が響いた。
司の声だ。
司は同年代の男性とともに通用口から姿を現した。
(やっぱりいた!)
沙夜は慌てて向きを変え、司がいる方へ一歩踏み出した。
そのとき、連れの男性が言った。
「お、まずい、携帯忘れた」
「待ってるから、取ってこいよ」
「悪い、すぐ戻る」
連れの男性はそう言い残してビルに戻っていった。
(今がチャンスよ!)
沙夜は司のいる方へ向かって歩き出した。
はやる心を抑えきれず、左右の確認もしないまま道路へ一歩踏み出した。
その瞬間、右側から大きなトラックの走る音が響いた。
沙夜は反射的に右を向く。
(あっ……)
気づいたときにはもう遅かった。
大型ダンプが沙夜めがけて突進してくる。
急ブレーキの音が響き渡り、司が顔を上げた。
その瞬間、沙夜と司の視線が絡む。
しかし司は沙夜を認識していないのか、急停止したダンプをただ不思議そうに見つめているだけだった。
(ああ……やっぱり見えないのね……。この世界線で、私とあなたが交わることはないんだわ……)
次の瞬間、ダンプに跳ね飛ばされた沙夜の体は、大きく宙へと放り出された。
世界がゆっくり遠ざかっていくような感覚の中で、彼女は深い哀しみに沈んでいく。
地面が迫る瞬間、沙夜の瞳から涙がこぼれ落ちた。
(私はこのまま死ぬのね……結局こうなる運命だったんだ……ああ……もう、疲れちゃった……)
激しい衝撃が全身を貫き、沙夜の意識はそこでふっと途切れてしまった。
コメント
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司さんから望まれてのお見合いだと お父さんから告げられて お義母さんからもご縁だと…だけど今いる所はタイムリープの世界 本当の事が聞けて嬉しかったと思った沙夜ちゃん だからこそ現実の世界へ戻りたいと 悩んだ沙夜ちゃん一大決心をして 司さんに会いにいく勇気に応援してましたが思わぬ展開に大型トラックに 轢かれるのどうして😭私もショック 沙夜ちゃんお願い事🙏諦めないで ちゃんと現実の世界に戻って来て
ご両親が話した司さんのアプローチが意外な話だったけど、沙夜ちゃんは嬉しい事実だよね でもやっぱり最初の時に伝えてあげてほしかったな… そして…司さんを目の前にして思いがけずの事故😱でももしかしたらこれを機に未来に戻る? でも今の世界の解明が中途半端で〜どうなるのかも不透明😶🌫️。。。
ご両親はそのお話を、何故現実世界で言ってあげなかったのかな…。 色々タイミングが駄目だったのね。 沙夜ちゃん、今の世界に戻る? まさか更に過去に行っちゃう? 戻るには話数的にまだ早いような気もするけど( ・᷄ὢ・᷅)ウーン。