テラーノベル
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放課後の街を抜けて、人気のない公園に足を踏み入れる。ブランコがかすかにきしみ、街灯の明かりがオレンジ色に芝生を染めていた。 大地は缶ジュースを二つ買ってきて、隼人の横に腰を下ろす。
「ほら、隼人。オレンジとコーヒー、どっちがいい?」
「……コーヒーで」
「だよな。なんか渋いし」
にかっと笑って差し出される缶を受け取り、プルタブを開ける。微炭酸のように沈黙がはじけた。
大地は空を見上げて言った。
「今日さ、楽しかったな。隼人と二人で出かけるのって、なんか新鮮だわ」
心臓が一瞬、ずれるように跳ねた。二人きり。特別に意識するつもりなんてなかったのに、言葉が胸の奥を揺さぶる。
「……大げさだ」
「大げさじゃねえって。俺さ、隼人ってもっと距離あるやつかと思ってた。けど近くで一緒にいると、案外気楽」
笑いながらそう言われると、なんだか目をそらしたくなる。嫉妬とか不安とか、複雑な感情に支配されていたはずの自分が、今は妙に安心している。
沈黙の隙間で、ふと大地の手が近くにあるのに気づいた。缶を持つ手が、わずかに触れるか触れないかの距離。
わざとらしく避けることもできた。けれど隼人は動かなかった。
「なあ隼人」
「……なんだ」
「お前ってさ、本気で怒ったらめちゃくちゃ怖そう」
「……は?」
「でも、俺にはそういう顔、見せねえよな」
からかい半分、本気半分。大地の声が夜風に混じって耳に残る。
隼人は言葉を返さなかった。ただ、横顔のままわずかに唇をかすかに結んだ。
大地はそれを見て、ほんの少しだけ頬を赤くしたように見えた。
距離は縮まらない。けれど確かに、二人の間には誰も入れない静かな熱が流れていた。
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