コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
全てが終わったあと、部屋には奇妙な静けさだけが残っていた。床に崩れ落ちたまま、遥は呼吸の仕方すら忘れたように浅く息を繰り返す。体のあちこちが重く、熱を帯びて、擦れた肌にはじんじんとした痛みが残っている。触れられた痕が確かにそこにあって、消えてくれない。
「……クソ、最悪……」
口の中に残る嫌な味を吐き出そうとしても、喉の奥に貼りついたまま離れない。鏡を見れば、髪は乱れ、頬は赤く腫れぼったい。自分の姿だと思いたくなくて、目を逸らす。
どうしてあんなふうに逆らえなかったんだ。どうして笑って「嫌だ」って言い返せなかったんだ。頭の中で繰り返す問いは全部、答えがわかっている。自分が弱いから。小さいころから殴られ続け、罵られ続けて、「黙って耐えること」が染みついてしまったから。
――でも、それでも。
必死に耐えれば、少しは認めてもらえるかもしれない。声を出さずに耐えれば、きっとすぐ終わる。そう信じて、ただじっと受け入れていた。その結果が、これだ。
「……気持ち悪い」
思わず声に出してしまう。体じゃない、自分自身に向けた言葉。喉が詰まって声がかすれる。涙がにじみ、こぼれるのも止められない。手で覆っても、指の隙間からぼろぼろと落ちる。
弟の颯馬に笑われ、仲間に弄ばれた記憶が頭の中でぐるぐる回る。あいつらにとってはただの遊び。でも、自分にとっては生きたまま皮膚を剥がされるような拷問だった。
「……オレは、なんで生きてんだよ」
誰もいない空間に、か細い声が落ちる。答える者はいない。
自分は汚れている。壊されて、ぐちゃぐちゃにされて、それでも拒めなかった。弱くて、情けなくて、惨めすぎる。もう二度と、まともに人の目を見て話せない気がする。笑っているやつらの顔が焼きついて離れない。
布団に潜り込んでも、体の奥から疼く感覚が残っていて、息をするだけで胸が締めつけられる。眠れない。目を閉じれば、手を伸ばされる感触や、吐き捨てるような声が甦る。
――「お前はこういうのが似合ってんだよ」
その言葉が頭の奥にこびりつき、消えない。
「違う……そんなわけ、ないだろ……」
必死に否定する。でも、声が震えて説得力がない。鏡に映った、自分を見た瞬間の絶望感を思い出してしまう。否定しても、現実は変わらない。
自己嫌悪の渦に沈み込み、遥は布団の中で声を殺して泣いた。呻き声と嗚咽が混じり、耳を塞いでも止まらない。――もう終わりにしてほしい。そう願うことすら、自分の甘えのように思えて、さらに自分を責める。