テラーノベル
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排除は、もう“いじめ”という形をしていなかった。
処理だった。
遥が教室に入ると、空気が一段落ちる。
ざわつきが、意図的に途切れる。
誰も何も言わない。
ただ、椅子が引かれる音だけが連鎖する。
(……ああ、今日も)
慣れている。
慣れすぎていることが、もう異常だと分かるほどに。
机に座ると、背中に何かが当たった。
硬い。
振り向く前から、分かる。
――消しカスと、濡れた紙屑。
ノートを開くと、文字が書けない。
ページが貼りついている。
乾いた跡が、斑に残っている。
(……またか)
誰がやったかは、どうでもいい。
“やっていい存在”になっていることが問題だった。
昼休み。
遥は立たされる。
「そこ」
指で示されるだけ。
理由は説明されない。
机の横。
通路の真ん中。
人が通るたび、肩がぶつかる。
肘が当たる。
わざとだ。
謝罪はない。
目も合わない。
(……俺、障害物なんだ)
そう理解した瞬間、胸の奥が静かになる。
怒りも、悲しみも出てこない。
――幼い頃と同じだ。
怒れば殴られた。
泣けば嘲られた。
黙れば、使われた。
だから、黙る。
午後。
誰かが、スマホを机に置く。
画面は伏せられている。
でも、音だけが流れた。
短い。
途切れ途切れ。
息が乱れたような、喉が詰まるような――
遥の体が、反射で強張る。
(……やめろ)
声は出ない。
出し方を、もう忘れている。
周囲が、笑わない。
ここが一番、残酷だった。
笑う必要すらないほど、共有されている。
「これさ、クオリティ高くね?」
「素材としては優秀」
「生きてる意味、それ?」
言葉が、遥を“人”として扱っていない。
でも、それに反論する言葉が、頭に浮かばない。
(……俺が、悪いんだ)
そう思う癖だけが、骨まで染みついている。
過去の映像。
過去の音。
過去の“奪われた瞬間”。
それが、今も続いている証拠として消費される。
遥は立ったまま、視線を落とす。
見ない。
見ても、意味がない。
日下部は、教室の端でそれを見ていた。
遥と目が合いかけて、逸らす。
その一瞬で、十分だった。
(……ああ)
切られた。
助けを期待していなかったのに、
期待していた自分が、はっきり見えてしまった。
放課後。
遥の机だけが残る。
椅子はない。
誰かが持っていった。
立ったまま、ノートを片づける。
背中に、重いものが当たる。
水。
冷たい。
逃げない。
怒らない。
謝らない。
ただ、そこに置かれている物として、受け取る。
(……壊れちゃ、だめだ)
壊れたら、もっと下に落とされる。
“使えない”と判断される。
だから、遥は壊れない。
壊れかけのまま、保たれる。
それが、
幼少期から、何度も教え込まれた
――生き残り方だった。
コメント
2件
無名の灯5から読み始めたんですが、前の話が気になって、どの順番で読めばいいですかね?