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決定的だったのは、全員が「やっていい」と理解した瞬間だった。
昼休みの終わり。
チャイム直前の教室。
誰かが、わざと大きな声で言った。
「おい、処分対象、まだ残ってんだけど」
一瞬、意味が分からなかった。
でも次の瞬間、椅子が蹴られる音が重なった。
遥の椅子だ。
「邪魔なんだよ、そこ」
「通路塞ぐなって言ってんだろ」
腕を引かれる。
力は遠慮がない。
床に引き倒され、膝がぶつかる。
(……ああ、始まった)
始まりじゃない。
段階が一つ、下に落ちただけだ。
「昨日の動画見た?」
「音だけでもキモかったわ」
笑い声。
軽い。
重みがないぶん、逃げ場がない。
誰かが水筒を逆さにする。
頭から、背中から、容赦なく。
冷たい。
でも、もう驚かない。
(……水、か)
昔から、罰は水だった。
汚れを落とすみたいに。
“要らないものを洗い流す”感覚。
「ほら、立てよ」
「立たないと蹴れねーだろ」
腹に一発。
脇腹。
息が、途中で途切れる。
「……っ」
声が漏れた瞬間、数が増える。
倒れたところに、靴底が落ちる。
一発じゃない。
順番だ。
(……数、覚えなくていい)
数え始めると、心が折れる。
だから、体だけをそこに置く。
「日下部さ、最近関わらないよな」
「賢いよなー。これと一緒にされたら終わりだし」
名前が出る。
胸の奥が、反射で締まる。
(……関係ない)
言い聞かせる。
期待したら、もっと痛くなる。
黒板の前に引きずられる。
背中を壁に打ちつけられる。
誰かが、教卓の上に紙を置いた。
『排除対象』
赤ペンで、雑に。
「これ、決定でいいよな」
「異議ある人?」
――ない。
誰も、手を挙げない。
教師も、来ない。
(……ああ)
公式になった。
これからは、
叩いてもいい
蹴ってもいい
無視じゃなく、使っていい
そういう存在。
「物以下って、楽だよな」
「壊れても責任ねーし」
頭を掴まれ、顔を上げさせられる。
「なあ、聞こえてる?」
「ちゃんと反応しろよ」
反応しないと、次が来る。
遥は、ゆっくり頷いた。
(……生きるためだ)
屈辱じゃない。
これは、手続き。
鐘が鳴る。
チャイム。
誰かが言う。
「じゃ、今日はここまで」
「またな、排除物」
笑いながら散っていく足音。
床に残される。
水と、汚れと、痛み。
(……終わらない)
分かっている。
これは“決定”だ。
戻れない。
取り消されない。
でも――
胸の奥の、もっと奥。
痛みの底。
(……壊れない)
壊れたら、
完全に“使い捨て”になる。
だから遥は、今日も壊れない。
壊れかけのまま、
徹底的に排除されながら、生きている。