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無名の灯 恋愛編

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無名の灯 恋愛編

25 - 第25話 心を預けるということは、裸になるより怖かった

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2025年07月25日

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日下部の目が、まっすぐに自分を見ている――それが、いちばん怖かった。

触られることは慣れていた。

見られることも、黙って耐えてきた。

命令されるのも、命じられるのも、言葉を失うほど日常にあった。


けれど、「心を見ようとされる」ことだけは、どうしても耐えられなかった。


その視線が優しければ優しいほど、遥は怖くなった。

なにかを暴こうとしているわけじゃないと分かっても。

ただ、そこに居ようとしているだけだと分かっても。


(……そんな顔、すんなよ)


逃げたくなる。

けれど、逃げたくなる理由を口にできない。

「信じたいけど信じられない」なんて言い訳を、

あいつに聞かせたくない。

口にしたら、どこかで期待してるって、バレる気がして。


遥は、自分がどこまで壊れているかを知っていた。

優しさを向けられるたびに、

「どうせそのうち汚される」と先回りして自分を安く売ってしまう癖。

与えられた信頼を、試し行動で踏みにじる癖。


それでも――


「信じてもいいか?」なんて言われたら、

“信じたい”自分が中にいることが、もっと怖かった。


もし、こいつにだけは“心”を預けてしまったら。

裏切られたとき、取り返しがつかなくなる。


体じゃなくて。

言葉じゃなくて。

心が壊れる気がした。


そんな遥に、日下部は何も強制しなかった。

だからこそ、苦しい。

見返りを求めてこないのが、いちばん恐ろしい。

傷つけてくれた方がよっぽど楽だった。


そうして遥は、静かに肩を震わせながら、目をそらした。

声も出さず、何も言わず、ただ――心を守るように自分を抱え込む。


それは、愛されたいわけじゃない。

ただ、「信じたくなる自分がいること」を、認めたくなかっただけだ。



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