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騒々しかった家臣達は各々の持ち場に戻り、すっかり静まりかえった謁見の間の中。
「良かったのですかな?私は事前に御報告をしたはずですが」
玉座に座ったまま肘置きに頬杖をつき、じっと動かずにいるレーニア国王に対し、司祭であるウネグが彼に声をかけながら近づいて行く。
「あぁ、もちろん覚えているさ」
レーニアは瞼を閉じて、軽く頷いた。
「【純なる子】であるトウヤの命を、あの子が——ライエンが、狙っているという件だろう?」
「そこまで知っていて、何故『ワタシが幽閉塔まで案内しましょう』という申し出を迷う事無く聞き入れたのですかな?トウヤ様に何かあっては、ユラン王子をお助けする事も出来なくなるというのに」
確かにその通りだな、とレーニアが深く頷く。だが、そう訊かれるのはもう知っていたかの様に、彼は微笑を浮かべた。
「そうだな。だがこのままでは、歪な心を抱えた者が残ってしまうだろう?それは今後必ず問題となって、国を滅ぼしかねない亀裂になる。ライエンは生まれてから一度も、自らユランに会おうとはしてこなかった。兄に対し色々思う事があるのは誰が見ても明らかだ。ならばもう、互いにぶつかり合って、解決させるしかないと思ってな」
「そう上手くいくのでしょうかのう。いい大人になってから初の兄弟喧嘩となると、悪い想像しか出来ませぬわ。皆が無事に、怪我なく戻るとよいのですがのう……」
腕を組み、ウネグが深く溜息をついた。
「だが、兄弟喧嘩に親が立ち会うのも拗れるだけだろう?ライエンの場合は、余計にだ。……でもまぁ、そうは言ってもだ。念の為に保険はかけた」
「ん?保険ですと?」
「二人とも私の大事な息子だ。殺し合いにまで発展しても困るからな。何かあれば『お前が間に入れ』と言っておいた者が、幽閉塔で既に待機済みだ」
ニッと笑ったレーニアの顔を見て、ウネグが呆れ顔になった。
耳の痛くなる声を張り上げ、ウネグが問いかける。
「お前の立場的には決して相容れぬ者だとはわかっているが、『アレ』は『アレ』でなかなか話のわかる奴だぞ?もう和解もしているのだしな」
ウサギ耳の生えるスキンヘッドの頭を両手で覆い、ウネグが『んのぁぁぁ』と叫び出しそうに体を震わせる。怒っているのか、悲しんでいるのか、何とも読み取れぬその反応を前にして、流石にレーニアも困惑の色を漂わせた。
「まあまあ、もう賽は投げられたのだ。全てをありのままに受け止めるしかないぞ?」
「……私は国王の意に従うだけではございますが、結果次第ではどうなるかわかりませぬぞ」
「ははは!子供の頃の様に尻でも叩くか?それは怖いな。……あぁ、かなり怖いな」
最初は楽しそうだったレーニアが、昔を思い出したのか、サーッと顔色を悪くした。
子供の頃にレーニアの教育係でもあったウネグには昔から頭が上がらない。互いの立場は変わっても、根底に染み付いた習性はどうにもならなかった。
「それがお望みとあらば、その様に!」
「いや、流石にもっと違う説教で頼むよ。もういいおっさんなんだよ?私は」
威厳無く慌てるレーニアに対し、ウネグが苦笑しながら、また溜息を吐いた。
「説教程度で済むと思っている時点で、相変わらず楽観主義ですなぁ」
「『従者だ』という『ルナール』とかいう者も居るのだし、何とかなるさ」
「私としては、彼に期待するばかりです。これ以上関わる者が増えては、話がややこしくなるだけですからのう……」
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「あぁ、そうだな」
二人が視線を合わせ、苦笑しあう。
この部屋からは見えぬ幽閉塔のある方向へ顔を向け、ただ無事を祈るのだった。
美しい花々で溢れるよく手入れの行き届いた庭を抜け、場違いな格好をしたまま柊也が二人と共に幽閉塔へと歩いている。
目的地まではしっかりと道が整備されていて、足元に敷き詰められたレンガはきっちりはまっているおかげでとても歩きやすく、高いヒールの靴でも躓く事なく進む事が出来ている。
ちらりと視線をあげると、頭にかぶったベール越しに鬱蒼とした雰囲気を漂わせる幽閉塔が目に入り、柊也がごくりと唾を飲み込んだ。歩くたびに『本当に上手くいくんだろうか』と不安が募り、頭の中では何故か軽くドナドナの歌が流れている気がして、その暗い曲調に自然と気分が滅入る。こんな気持ちでは完全に満足させるどころか、抑え込む事すら出来ないのでは?と心配になるレベルでやる気が起きない。
軽く視線を落とし、手首にはまる銀色のブレスレットを見て気合いを入れねばと思ったのだが、どうにもダメだった。
三人とも口数はとても少なく、ラモーナ王妃の部屋を出てから彼等はほぼ一言も会話をしていない。案内役であるライエンは相変わらずしかめっ面をしたまま手から血を垂らしているし、ルナールは頬を染めていて完全に教会へ向かう花婿気分だ。
そんな彼らの心境を察する余裕の無い柊也は、モヤモヤした気持ちを持て余していた。
(二人目の子がまだ来ないけど、マジでどうするんだ?その事を誰も話題にもしないし、気にしている気配すらないのが、かえって怖いぞ……。もう、この件は完全に僕だけに一任されたって事なのか⁈しかも、こんな格好の僕を、【孕み子】の居る場所まで連れて行くとか……何でルナールは平気なの?)
——考えるのはそんな事ばかりだ。
せめてルナールが何を考え、何を望み、柊也の事をどう思っているのかをきちんとシラフだと認識し合った状態で確認する事が出来ればまだ気持ちも晴れるのだろうが、『どんな結果になろうが、ルナールとはもうすぐ離れ離れになるのだ』という思い込みが邪魔してしまい、柊也は声をかける事すら出来なかった。