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栞ちゃんだけじゃ無いのよ直也先生も栞ちゃんに逢いたかったのよ。逢えない時間が2人の愛育ててたのよ!たぶん
直也先生絶対栞ちゃん居るのをわかってましたよね アンケートもさり気なく研究室へ呼ぶ口実ですか😊 やっと逢えますね 栞ちゃん 先生良かったですね❤️ そして先生の本はいつでも栞ちゃんを見守り助言してますね それを素直に実行する栞ちゃん 可愛らしい🥰です
やはり 直也先生は 本を通して 栞ちゃんを応援し、守っていたのですね💖 この再会から、恋愛に発展していくと良いなぁ....🍀✨
講義が始まると、学生たちにアンケート用紙が配られた。
現役大学生の生活実態を調べるための無記名アンケートだ。
内容は、睡眠や食事について、勉強やアルバイト、ゲームに費やす時間、そして飲酒や喫煙の有無まで多岐にわたる。
記入後、後ろから前へアンケートが回収され、一番前にいた栞はアンケートの束をまとめて、直也が回収にくるのを待った。
右端から順に用紙を集める直也が、栞の方へ近づいてくるにつれ、栞の心臓は飛び出しそうになる。
直也が斜め前に来た瞬間、二人の視線がぶつかった。
直也の瞳は一瞬キラリと光ったように見えたが、彼は無言でアンケート用紙を受け取り、教壇へ戻っていった。
(もしかして、私のこと覚えてないの?)
栞は、そんな不安に駆られていた。
その時、学生たちに向かって直也が言った。
「初日から悪いんだけど、誰かアンケートの集計を手伝ってくれないかな?」
すると、後方にいる派手な女子学生たちが一斉に「はーい!」と手を挙げたが、直也はそれには目もくれず、栞と愛花の方を向いてニッコリ微笑んだ。
「んじゃ、そこのお二人さん! 今日の最終講義が終わったら僕の研究室に来てください。よろしくね~」
二人は目をまんまるにして驚いた。
「うっそー! 今日、隼人とディナーの約束してるんだよ! 付き合って半年の記念日なのにー!」
慌てて愛花が栞に訴える。
「でも来いって言ってたよ」
「だよねぇ……じゃあ、ちょっと顔を出して逃げるかな! そのあとは栞ちゃんにお願いして」
「えーっ?」
栞の困惑をよそに、愛花はニコニコと携帯をいじり始めた。
栞は講義どころではなかった。直也が教室に入ってきた瞬間から、心臓の高鳴りが止まらない。
まさかこんな形で再会するとは、想像もしていなかった。
なんとか気持ちを落ち着けようと、栞は深呼吸した。
そして、あの日自分を救ってくれた医師の姿を懐かしそうに見つめた。
今日の直也は、グレーのパンツに白いカットソー、ネイビーのジャケットスタイルだった。
暑さで脱いだジャケットは椅子に掛けられ、腕まくりした袖からは日に焼けたたくましい腕がのぞいている。
その姿に、栞はあの日、直也に抱き上げられた記憶がよみがえった。
ずっと会いたいと願っていた人が、今、目の前にいる。
夢じゃない。その奇跡をかみしめながら、栞の目頭がジンと熱くなった。
(そっか……私はずっと……ずっと先生に逢いたかったんだ……)
栞はこみ上げる涙をぐっとこらえ、両手をギュッと握り締めた。
直也の初講義は、チャイムの音とともに終了した。
講義後、直也はあっという間に華やかな女子大生たちに囲まれていた。
その様子を横目に見ながら、栞と愛花は大教室を後にした。
歩きながら、愛花が言った。
「栞はこのあと何もないんだよね? 私はもう一本講義があるから、そのあと貝塚先生の研究室前で集合ね!」
「わかった。私は、西校舎の隣のカフェでレポートをやってるね」
「うん。じゃあ後でね!」
愛花に手を振りながら、栞は大学構内にあるカフェへ向かった。
カフェに入ると、栞は注文カウンターでカフェオレを買い、空いている壁際の席へ座った。
温かいカフェオレを一口飲むと、イヤホンをつけてお気に入りの曲を聴きながら、レポートの続きに取り掛かった。
しばらくすると、集中している栞の肩を誰かがトントンと叩いた。
驚いて顔を上げると、そこには医学部四年生の重森悟(しげもりさとる)が立っていた。
彼はかつて栞に交際を申し込んだ三人のうちの一人だった。
栞がイヤホンを外すと、重森が笑顔で話しかけてきた。
「今日の講義はもう終わり?」
「はい。重森さんは?」
「俺は今実習を終わったとこ! どう? 今日の帰り、食事でもしていかない?」
「いえ、このあと用事があるので」
「それって、俺の誘いを断るための口実とかじゃないよね?」
「違います! アンケートの集計を教授に頼まれたので……」
「ふーん、そっか。それじゃあ仕方ないな、また誘うよ!」
重森はにっこりと微笑むと、カフェの出口へ向かった。
その後ろ姿を見つめながら、栞は深いため息をつく。
重森とは、愛花に誘われて参加したヨット部のイベントで知り合った。
医学部の学生が多いヨット部は、他大学の女子からも人気が高く、その中でも重森は群を抜いて人気のある存在だった。
180センチを超える長身に、都会風のイケメン。ヘアスタイルはツーブロックで洗練されたファッション。実家は大きな病院を経営し、スマートな身のこなしには生まれながらの育ちの良さが現れていた。
多くの女性が憧れる重森から、突然交際を申し込まれた栞は、なぜ自分なのかと理解に苦しみ戸惑っている。
その時助けになったのが、直也が執筆した恋愛に関する本だった。
『これから恋愛をする君へ~真実の愛を見つけるために大切な10のこと~』
その中には、こう書かれていた。
『プライドが高い男性は、自分の誘いを断った女性に執着しがちです。何度断ってもしつこく誘ってくる場合、慎重に相手の真意を見極めましょう。彼らはあなたが要求を受け入れた途端、興味を失い、最悪の場合、あなたを都合の良い存在として扱うこともあります。これを避けるためには、相手が「遊び」なのか「本気」なのかをしっかり判断する必要があります』
恋愛未経験の栞にとって、これは非常に難易度が高い。
重森はいつも自信満々で、自分がモテるのは当然だと思っている様子だった。だから、自分が誘えば女性は皆応じると思い込んでいるのかもしれない。
だが、栞はその誘いをきっぱりと断った。その態度が逆に、彼を刺激し、くだらない恋愛ゲームを始めさせてしまったのかもしれない……栞はそう感じていた。
栞は、自信に満ちた男性は嫌いではなかったが、重森のように相手の気持ちを気遣えない人は苦手だった。
もし自分が重森の立場だったら、嫌がる人に無理強いはしないだろう。
そう考えると、重森が栞に抱いているのは『好意』ではなく『執着心』なのだと思う。
その瞬間、栞の頭に再び直也の本の一文が浮かんだ。
『あなたが最初に感じた違和感という「直感」は、ほとんどの場合正しいことが多いです。それとともに「女の勘」もかなり役立ちます。誠実な相手を見つけるためには、常にこの二つをフル活用しましょう』
栞は、これを読んで自分の直感を信じることにした。
またしても直也の本に助けられていたことに気づき、栞は思わずフフッと笑うと、レポートの続きを再開した。
そんな栞を、直也は離れた席からじっと見つめていた。
彼は、今の栞と重森のやり取りをすべて見ていた。
栞から視線を外した直也は、満足げにコーヒーを一口飲む。
そして、窓の外に広がる美しい新緑を、穏やかな表情で眺めた。