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この瞬間の為に2年2人共よく待ったと思うわ。2人の心の霞が消え2人の気持ちがきちんと重なった日だね。
運命の再会....🍀✨ これから始まる二人のラブストーリー....ドキドキ♡ 楽しみです👩❤️👨✨
運命が巡り合わせてくれた二人の再会シーン この回は神です 二人ずっと思い合っていての再会❣️ 最高です マリコ様素敵な場面ありがとうございます
約束の時間になり、栞はカフェを出て直也の研究室へ向かった。
研究室の前の廊下で壁に寄りかかっていると、愛花が小走りで駆け寄ってきた。
「ごめん、遅くなって!」
「ううん、私も今来たところ」
「よかった! 実はね、講義の時、後ろの席にいた派手なお姉さま方に、アンケートの手伝いを代わってって言われちゃってさ。みんな貝塚先生狙ってるみたい~! でもさ、私って天邪鬼だから、そう言われると邪魔したくなるんだよね~」
愛花はそう言って楽しげに笑った。
「すごい人気なんだね」
「イケメンで医者で独身っていったら、そりゃ狙われるよ~。そう考えると、人気者の先生の研究室に入れるのってすごいことじゃない? あー、楽しみー!」
愛花はウキウキしながら、研究室のドアをノックした。
「どうぞ」
「「失礼します」」
二人は研究室に入った。
直也の研究室は日当たりがよく、とても明るかった。
普通の研究室よりもかなり広かったので、栞は驚いていた。急遽ピンチヒッターとして来てくれた直也のために、大学側が気を遣っていい部屋を用意したのだろう。
室内には、会議ができそうな広いテーブルがあり、窓際には革張りのソファセットが置かれていた。
窓辺には、小さな観葉植物の鉢が三つ並んでいる。直也の私物だろうか?
雑然とした部屋に似つかわしくないその植物たちは、太陽の光を燦々と浴び、生き生きとしていた。
ただ、室内はまだ片付けが済んでおらず、机の上には山積みの本や書類が今にも崩れそうな状態だった。
窓際のデスクに座っていた直也は、椅子から立ち上がり言った。
「こんな時間に悪いねぇ! じゃあ、そこへ座ってください」
二人が並んで座ると、直也は先ほど回収したアンケート用紙の束を二人の前に置いた。
「今、ざっと男女別に分けてみたけど、あとは項目ごとにカウントしてもらえる?」
そこで愛花が勢いよく言った。
「教授! これ、今日中には絶対無理です!」
「だよねぇ、僕もそう思った」
直也がニッコリと笑って言った。
「急ぎじゃないから、今日中じゃなくてもいいよ。今日はできるところまでで、来週の講義後に、また来てやってくれればいいから」
「それなら、頑張りまーす!」
「ところで、まだ名前を聞いてなかったね。えっと君は……」
「文学部二年の立花愛花です!」
「愛花ちゃんだね、よろしくー! それと栞ちゃんね」
「先生! 栞のこと知ってるんですか?」
「うん、まあね」
「へっ? 栞、そうなの?」
「うん……」
栞が口ごもる様子を見て、愛花はピピッと何かを感じたようだが、それ以上何も聞かなかった。
そして、直也に向かって言った。
「先生! 私、今日用事があるので、5時までしか出来ません!」
「オッケー、それでいいいよ」
「よかった! じゃああと30分あるから頑張りますね!」
栞と愛花は、さっそく集計作業を始めた。
30分後、愛花が机の上を片付けながら言った。
「では、お先に失礼します! また来週来ますねー。じゃ、栞、頑張ってね!」
愛花は栞に声をかけ、元気よく研究室を出て行った。
愛花の姿が見えなくなると、直也が静かに言った。
「しっかり者の友達ができたみたいだね」
その言葉を聞き、栞は顔を上げた。
直也の態度が、先ほどまでの他人行儀な雰囲気から、昔馴染みの優しい雰囲気に変わり、栞の胸が熱くなる。
「はい。とっても頼りになる友達です」
「久しぶりだね、元気そうで安心したよ。その後、発作は大丈夫?」
「はい。あれから一度もありませんでした」
「それは良かった」
「先生が教室に入ってきた時は、心臓が止まるかと思いました」
「ハハッ、それは僕も同じだよ。実は、佐藤先生は僕の恩師でね。卒業後もずっと交流があったんだけど、急に体調を崩してピンチヒッターを頼まれたんだ。系列大学からの頼みだと病院側も断れなくて、一年間、週一の約束で引き受けることになったんだ」
直也はそう言いながら、栞にコーヒーを淹れてくれた。
「ありがとうございます」
栞が直也を見上げると、彼はじっと栞を見つめていた。
「すっかり女子大生らしくなったね。制服姿の君しか知らないから、なんか不思議な感じだよ」
突然そんなことを言われたので、栞はドキッとした。
「先生の方こそ、学生たちに大人気でしたね」
「こんなチャラい教授が来たから、きっと珍しいんだよ」
昔と変わらない直也の口調に、思わず栞はクスッと笑ってしまう。
「笑ったな」
「だって…….」
栞はさらにクスクスと笑い始めた。
そこで直也が、ふいに尋ねた。
「大学に入ってから、恋の一つや二つ、経験したかな?」
「……いえ」
「えーっ、してないの? せっかく君のために恋の指南書を書いたのになぁ……」
その言葉に、栞はびっくりした。
(あの本は、私のために書いてくれたの?)
ふと、そんな考えが頭を過った。
「先生の新しい本、二冊とも読みました。とても分かりやすくて、すごくためになりそうですが……今の私には役立たずでした」
栞は『役立たず』と言った瞬間、ハッとした。
その言葉は、著者に対して言うべきものではないと思ったからだ。
「ん? 役立たずだった? それはどうして?」
「だって、私はまだ恋愛経験がないから……読んでもあまり意味が分からなくて……」
栞の言葉を聞いて、直也の頬が緩んだ。
「そういう意味か! でも栞ちゃんはすごく綺麗になったから、付き合うチャンスくらいあったんじゃない?」
その言葉に栞はドキッとする。
(え? 今、先生は綺麗になったって言った?)
心臓の高鳴りを抑えながら、栞は答えた。
「交際を申し込まれても、ときめかないと付き合えませんから」
「そんなことはないだろう? 付き合ううちに好きになる場合だってあるし」
「そんな風に気軽に付き合えればいいんですけど、私にはそういうのは向いてないみたいです」
淋しそうに微笑む栞を見て、直也の胸がギュッと疼いた。
あの日、直也は栞を諦めた。まだ若過ぎる栞の未来を邪魔したくない___悩み抜いた末での決断だった。
しかし、その日を境に栞への想いはますます募るばかりだった。
何度も栞へメッセージを送ろうと思ったことはあったが、直也にはその勇気がなかった。
そんな時、栞のいる大学で教鞭を取る話が持ちかけられた。直也は、それを運命だと感じた。
栞のことがあって以来、直也は女遊びを一切やめていた。それを見ていた同期の圭は、不思議に思っていた。
何度飲み会や合コンに誘っても、一度も参加しない直也を見て、もしかしたら本命の女性ができたのかもしれない___そんな憶測まで抱いたほどだ。しかし、いつまで経っても直也の新しい女性は現れなかった。
疑問に思った圭は、思い切って直也に尋ね、そこで初めて栞の存在を知った。
特任教授の話が舞い込んできた時、「このチャンスを絶対に逃がすなよ」と強く勧めたのも圭だった。
圭の励ましと後押しを受け、直也は今栞の前にいる。
コーヒーを飲み終えた栞が再び集計作業に戻ると、直也はその様子を静かに見守る。
栞は、想像以上に美しく成長していた。
高校時代より明るくなった髪は、毛先にゆるやかなウェーブがかかっている。
体型は以前よりもスリムで、女性らしい柔らかな丸みを帯びている。
今日の栞は、膝丈のベージュのフレアースカートに、ボートネックのストライプのカットソーを合わせていた。
春らしい装いだ。
ジーンズ姿の女子学生が多い中、栞はきちんと女性らしい服装をしている。
かすかに漂う甘いローズの香りが、栞の大人の女性としての成長を物語っていた。
(やっと会えたね……)
直也は心の中でそう呟き、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
そして、栞に尋ねた。
「今は念願の一人暮らし?」
「はい。先生おすすめの三軒茶屋にしました」
「え? そうだったんだ。一度も会わなかったね」
「先生もまだ三茶ですか?」
「うん、前と同じ場所だよ」
「そうだったんだ…….」
栞はそう呟き、続けて言った。
「あの…….あれから父は離婚しました」
「え?」
直也はかなり驚いている様子だった。
「私が合格したあと、いろいろあって…….」
「え? じゃあ、義理のお母さんとお姉さんは、もういないってこと?」
「そうです」
「そっかぁ。この一年ちょっとの間に、いろいろあったんだね」
「はい。世田谷の実家も、もうなくなりました」
「お父さんが手放したの?」
「はい」
「そっかぁ……。で、今お父さんは?」
「世田谷区内にマンションを買って、そこで独身生活を謳歌してます」
栞は、父が伸び伸びと一人暮らしを満喫している様子を思い出し、思わずクスッと笑った。
その笑顔を見た直也は、心から安堵した。
どうやらこの離婚は、栞と父親にとって、最良の選択だったらしい。
その時、直也は椅子から立ち上がり、栞のすぐ傍まできてこう言った。
「いろいろあったみたいだけど、頑張って乗り越えたんだね。偉いぞ!」
直也は優しく微笑みながら、栞の頭をクシャクシャッと撫でた。
その時、栞はもう限界だった。
直也に触れられた瞬間、栞の瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ちてきた。
栞がずっと求めていたのは、この大きくて温かな手だった。
直也の手は、いつも栞の心をあっという間に溶かしてくれる。
栞の涙に気づいた直也は、それをそっと指先で拭い、栞を椅子から立たせる。
そして、次の瞬間、ギュッと抱き締めた。
突然の出来事に戸惑いながらも、栞は溢れる涙を止めることができなかった。
直也の胸は温かく、ホッとするような安心感に満ちている。
その逞しい胸に顔を埋めながら、栞は泣き続けた。
そんな栞をしっかりと抱き締めながら、直也はこれまで胸の内にあったすべての迷いが消え去っていくのを感じた。
そして、今、自分の腕の中で泣いているこの愛しい女性を、心から愛することを心に誓った。