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朝の体育の授業。薄暗い更衣室で、遥は黙って着替える。壁に掛かったロッカーの音が、小さな波紋のように響いた。誰も彼を手伝うふりもせず、目も合わせない。隣のロッカーから、囁き声が漏れ聞こえる。
「こいつの体、見たらトラウマになるぜ」
「おまえ、あの下着、どこで買ったんだよ? さすがにキモいわ」
声は近くで笑い合い、足音は遥の方へ近づいた。だが遥はゆっくりと呼吸を整え、目を伏せたまま、自分の肌にだけ集中する。見られることが、彼にとっては罰だ。
運動場に出ると、他の生徒たちは自然な輪を作る。遥は輪の外、影の中に押し込められる。ボールが彼の前に転がってきても、誰も拾わない。時折、足元に蹴り飛ばされ、遠くに転がるだけだ。
「おい、見ろよ。こいつの汗、臭そう」
「そんなの見るだけでもキツいわ」
体育教師の目が遠くで薄く動く。だが、その視線は彼を助けるよりも、問題を“放置”する方へ傾いている。
休憩時間、遥の背後から誰かが近づき、耳元で低い声が響く。
「お前さ、そんなに静かにしてると、誰かに“気持ちいいこと”されるぞ」
遥の身体が一瞬硬直する。皮膚の奥に、言葉の棘が深く刺さった。
誰も助けてくれない。誰も触れたくないのに、誰かの“興味”だけは向けられる。彼は孤立の中で、目に見えない鎖に縛られている。