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「さて――そろそろ核心に入ろうか」
誰かの低い声が、笑いの余韻を断ち切った。遥と日下部は並べて立たされ、周囲を囲まれている。
「お前さ、散々“なんでもする”って言ってきたよな。じゃあ聞かせろよ」
「……なにを……」
遥の声はかすれていた。
「決まってんだろ。気持ちよかったのかどうか、だ」
「この前のローターでもそうだし、それ以外もな。お前、クセになってんじゃねえの?」
ぞわり、と空気が冷える。
遥は首を振った。必死に否定しようとした。
「ち、違う……! 俺は、そんなの……」
だが、その言葉は途中で叩き潰された。机を蹴る音。
「嘘ついてんじゃねえぞ!」
「日下部に何されてもいいのか? 次はお前の目の前でコイツを縛りつけるぞ」
日下部の名前が出た瞬間、遥の顔色が変わった。
唇を震わせ、息が詰まる。
「……違う、違うんだ……気持ちいいなんて……思ったこと……」
「なら言えよ。“気持ち悪かった”って」
「……き、気持ち悪かった……」
無理やり搾り出したその言葉は、すぐに笑いにかき消された。
「ほんとかぁ? だったら聞くけどさ――フェラ、されたことは? 自分でしたことは?」
「……っ……」
遥の背筋が凍りついたように固まる。視線が宙を彷徨い、答えを拒んでいる。
「黙るなよ。“なんでも話す”って約束したろ?」
「日下部に全部聞かせてやれよ。お前の汚ねぇ過去をな」
遥はかすかに首を振った。だが次の言葉が容赦なく突き刺さる。
「じゃあ俺らで試してみるか? ここでやらせて、“どっちが本当か”確かめようぜ」
「やめろッ!」
日下部が叫ぶ。だがその声も、遥には届かない。
彼はすでに、耐えるために声を押し殺していた。
「……っ、……ある……」
喉の奥から、掠れる告白が漏れる。
「……一人で……やったことは……ある……」
教室がざわめきと笑いで揺れる。
「おい、聞いたか? オナニーしてんだとよ!」
「お前さぁ、どんな風に? どうやって? 手で? どのくらい?」
「やめろ……」
日下部が低く呻いた。
だが加害者たちは止まらない。
「で、どうだった? 気持ちよかったんだろ?」
「……」
「答えろよ。言わねえなら、日下部に同じことさせんぞ」
遥は肩を震わせ、目を閉じた。
「……気持ちよかった……」
掠れた声で吐かれたその言葉に、爆笑が重なる。
「やっぱりな! クセになってんだろ!」
「おい日下部、どう思う? お前の隣で真っ赤になって“気持ちよかった”とか言ってんぞ」
日下部の拳が震える。だが遥は、その横顔を見ない。
さらに追い打ちが来る。
「フェラは? 誰かにされたことは? やらされたことは? 俺ら聞いてんのは“全部”だからな」
遥は言葉を失った。喉が塞がり、心臓が潰されるように痛む。
その沈黙を、加害者たちは許さない。
「答えろ。言わねえと日下部に舐めさせるぞ」
「……っ……」
「お前が喋らないせいでアイツが巻き込まれる。それでいいのか?」
遥の肩が大きく震えた。
「……っ……されたことは……ある……」
「ほら見ろ! やっぱりあんじゃん!」
「なぁ日下部、聞いたか? コイツ、黙ってそういう目に遭ってたんだぜ」
日下部は奥歯を噛み締める。その横で、遥は自分の声を聞かないふりをしていた。
「おい、もっと詳しく言え。どうされた?」
「……っ、やめろ……」
「詳しく! なにされた! そのとき何考えてた!」
遥の唇が震える。だがその声はもう言葉にならない。
ただ「やめてくれ」と、心の中で繰り返すしかなかった。
――けれど、加害者たちの笑いは止まらない。
遥の口から引き出された言葉が、彼らにとっては最高の酒のように甘美に響いていた。