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そして金曜日がやってきた。
この日、優人は少し難易度の高い手術に挑む。
以前、野中に急遽変わってもらった手術ほどではないが、それでも気を抜けない症例だ。
手術を受けるのは、湊総合病院に入退院を繰り返している野坂という女性患者。
七星とも親しくしている、あの野坂である。
彼女は髄膜腫を何度も再発しており、良性とはいえ発生の部位の影響でさまざまな症状に悩まされていた。
顔面の痛み、頭痛、手足のしびれ――それは日常生活にも支障が出るほどだ。
以前、東京の大学病院で手術を受けたものの、腫瘍は完全には取り切れず、再び大きくなって脳を圧迫していた。
「血圧も安定していますし、大丈夫でしょう。では野坂さん、これから手術室で頑張りましょうね」
手術前の回診を終え、優人がにっこり微笑むと、野坂は不安を押し隠すように口を開いた。
「先生、お願いしますね。こんな大ごとの手術……もうこれで最後にしたいですから」
野坂の家庭事情が複雑なのを、優人は知っていた。
交通事故で障害を負った夫を自宅で介護し、夫の両親も高齢で家にいる。
今は義理の妹夫婦が手伝いにきてくれているが、長く家を空けるわけにはいかない。
そんな中、優人がこの病院へ赴任してきたことで、野坂は東京の病院に行かずに済み、ここで手術を受けられるようになったのだ。
その手術も、今回こそ最後にしたい――彼女からはそんな思いが痛いほど伝わってくる。
優人は、そんな彼女を安心させるように穏やかな声で言った。
「大丈夫ですよ。東京にいた頃、何度も経験した手術ですし、僕の得意分野なんです。安心して任せてください。野坂さんが麻酔で眠っている間に、必ず元気な体に戻してみせますから」
その言葉に、野坂はほっとしたように頷き、もう一度優人に頭を下げた。
病室を出た優人は、一足先に手術室へ向かう。
ちょうどそのとき、遅番で出勤してきた七星が同僚二人と一緒に向こうから歩いてきた。
すれ違う瞬間、七星は軽く会釈し、優人に向かってあの“おまじない”の仕草をしてみせた。
先日ラーメン店で「やってみて」と言っていた、あの動作だ。
優人は微笑み、親指を立てて「グー」のサインを返すと、手術室へ向かった。
七星は同僚より少し遅れて歩きながら、優人の背中を静かに見送った。
手術室に入り手を洗っていると、野中がやってきた。
彼は今日もサポートに入ってくれる。
「心の準備は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「この手術はお前にとっては朝飯前だろうが、何かあったら遠慮せずに頼れよ」
「ありがとうございます」
優人は笑顔で返事をし、手を拭いてから手のひらに“人”という字を三度書いて飲み込む仕草をした。
「なんだ、お前。緊張してるのか?」
「いえ。このおまじないをすれば成功するって、ある人から言われたので……」
「ははっ、言われたって、誰に言われたんだ?」
興味を引かれた野中が尋ねると、優人は穏やかに答えた。
「僕より若いのに、僕よりしっかりした人です」
「なんだ、それ?」
野中は意味が分からないという顔で首をかしげた。
三十分後、優人は予定通り野坂の手術を開始した。
その頃、七星は野坂の病室の荷物をまとめ、リカバリールームへ運んでいた。
術後、野坂は元の病室には戻らず、リカバリールームへ移される。
野坂の夫は障害があり、義理の両親も高齢で見舞いに来られない。
子供のいない野坂は、身の回りの世話をしてくれる人がいない。
だから七星が担当となり、荷物をまとめていた。
(どうか、野坂さんの手術が成功しますように……)
野坂はぶっきらぼうだが、根はとても優しい――七星はそれをよく知っていた。
どこか自分と似ている気がして、親近感すら覚えている。
そして野坂は、どんなときも七星の味方でいてくれる大切な存在だ。
そんな彼女のことを思いながら、七星は荷物をまとめつつ、手術が成功することを静かに祈った。
野坂の手術は七時間にも及んだ。
途中かなり難航したが、優人は見事にやり遂げた。
弱気になりそうな瞬間、優人の脳裏には七星の言葉が浮かんだ。
“金曜日の手術……きっと大丈夫だから”
“私、未来予測が当たるんだ。たぶん霊感かなんかあるんだと思う”
“だからね、きっと金曜日は成功すると思うよ”
その言葉が背中を押し、優人は最後まで集中力を切らさず乗り切った。
「よし。完璧だ。優人、よくやったな」
「ありがとうございます」
野中に労われた優人は、すがすがしい気持ちで最後の処置へと移った。
七星が仕事を終えて帰る頃、ナースステーションからナースたちの会話が聞こえてきた。
「野坂さんの手術、無事終わったみたいよ」
「さすが尾崎先生! やっぱり名医だね~」
「東京の有名病院でもうまくいかなかった手術をあっさり成功させちゃうんだもん。すごいよね~」
「でもさあ、野坂さんが元気になっちゃったら、私たちまた怒鳴られちゃうんじゃない?」
「やだ、それは困る~。そうならないためにも、とっととリハビリしてもらって、一日でも早く退院してもらわないと」
「キャハハ、ひどーい、そんな言い方! それじゃあ全然白衣の天使じゃないじゃなーい」
次々と飛び出す心ない言葉を聞き、七星は無表情のままその場を立ち去った。
そしてロッカーへ向かいながら、優人が無事に手術を成功させたことに胸を撫でおろす。
気づけば七星は鼻歌を口にしながら、軽やかな足取りでロッカールームのドアを開けた。
コメント
11件

手術の成功は、優人さんの技術と七星ちゃんの応援のおかげかな。 でもこの終わり方、あの意地悪看護婦が何か仕掛けてきたかなとちょっと不安。
野坂さんの手術が七星ちゃんのおまじない効果もあって無事成功✨おめでとうございます🎉㊗️ それにしてもピーチクパーチク🐤うるさいナース👩⚕️達だな💢 ここのナースは白衣の天使じゃなくて悪魔か堕天使だよ👿 患者に寄り添わないナースは一掃🧹👋して真の白衣の天使ステーションにして欲しいわ😡😤
野坂さんの手術、無事成功して良かった✨️✨️🥹 七星ちゃんのおまじない効果バッチリ👌七星ちゃんは優人先生にとってまさに女神✨✨ これを機に、2人の絆にが深まっていく予感…💕
白山小梅