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ruruha
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午後の授業が始まっても、遥の身体は冷えたままだった。濡れた制服は乾ききらず、袖を動かすたびに重い。頭もぼんやりしていた。
それでも、教師は何も言わない。
黒板に向かったまま、淡々と授業を進めている。
「遥」
後ろから声がした。
振り返る。
「これ」
机の上にプリントが落とされる。
「今日中」
「……何枚?」
「全部」
束になったプリントを見て、遥は息を吐いた。
「授業中に?」
「休み時間あるじゃん」
「でも……」
「何?」
遥は口を閉じた。
「わかった」
「最初からそう言えよ」
笑い声。
遥はプリントを抱えた。
立ち上がった瞬間、視界が揺れた。
机に手をつく。
「何してんの?」
「……なんでもない」
「また?」
背中を押される。
遥は前へよろけた。
「早く」
廊下へ出される。
プリントを配る。
一枚渡すたびに、身体が重くなっていく。
途中で一枚落とした。
拾おうとしゃがんだところで、後ろから紙を蹴られた。
「落とすなよ」
「ごめん」
「拾え」
遥は拾う。
また歩く。
次の教室。
次の束。
戻ってくる。
「遅い」
「……ごめん」
「お前さ」
肩を掴まれる。
「さっきからずっと謝ってんな」
遥は黙った。
「謝れば許されると思ってる?」
首を横に振る。
「じゃあ何?」
答えられない。
そのまま腕を引かれ、教室の後ろへ連れていかれる。
「こいつ、今日調子悪いらしいからさ」
「だから?」
「ちゃんと仕事できるようにしてやろうぜ」
笑い声。
遥は一歩下がった。
けれど、机が背中に当たった。
逃げる場所がない。
「……やめて」
初めて、はっきり言った。
「何?」
「もう、無理だから」
一瞬だけ静かになる。
それから、誰かが笑った。
「無理?」
「仕事できないって?」
「じゃあ休めば?」
「でも休んだら仕事できないじゃん」
また笑い声が起きる。
遥は俯いた。
何か言おうとした。
けれど、頭の中が白くなった。
耳鳴りがする。
身体が急に遠くなったような感覚がした。
「おい、立てよ」
肩を掴まれる。
遥は反応できない。
「遥?」
呼ばれても、声が聞こえない。
視界がぼやける。
机に手をつこうとした。
指が届かない。
そのまま身体が崩れた。
床に倒れる音がして、教室が静かになった。
「……え?」
さっきまで笑っていた誰かが、遥を見る。
「おい、寝んなよ」
返事がない。
「遥」
肩を揺すられる。
それでも動かない。
教室の前では、教師がようやく振り返った。
けれど、すぐには駆け寄らない。
誰かが小さく言った。
「……どうすんの、これ」
誰も答えなかった。
床に倒れた遥だけが、ひどく静かだった。
コメント
1件
みぅです🌙 第46話、読み終わりました……。 遥の「無理だから」って初めての拒絶が、すごく胸に刺さりました。ずっと我慢して、謝って、それでも届かない場所で倒れてしまう描写、息が詰まるようでした。特に最後の「誰も答えなかった」の静けさが、読んでるこっちまで苦しくて。 ruruhaさんの描く"無関心の連鎖"、すごくリアルで怖いです。遥の身体が崩れた瞬間の教室の間、ちゃんと表現してるところが好きです。 続き、気になります。