テラーノベル
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午前ももう過ぎ、家全体が静まり返った中、玄関のベルが鳴った。晃司、颯馬、怜央菜、沙耶香に続き、複数の友人たちがぞろぞろと入ってくる。見知った顔、初めて見る顔――どれも笑っている。いや、笑っているのではない。俺を見下ろす目で、楽しむためにやって来た。
「お、今日は主役揃ったな」
晃司がにやりと笑う。颯馬が手を叩き、怜央菜は肩で俺を押す。
「さあ、今日も遊ぶ時間だよ」
沙耶香の声が追い打ちをかける。俺の体はすでに限界を迎え、震えが止まらない。
「なあ、飲み物も食べ物もないんだろ?」
一人の友人が茶化すように言う。
「そりゃあ、この状態で我慢できるわけないだろ」
と別の声が重なる。
俺は床に這い、庭から取りにくる水を掬い、投げられた食べ物を口に押し込む。泥の混じった水、ぬるく腐敗しかけたパン。喉を通るときの嫌悪感と、命をつなぐための本能的な欲求が同時に襲う。
「おい、顔見ろよ」
晃司が手で俺の頬をひっぱる。
「これ、味わってみろ。お前にぴったり」
颯馬が投げた果物が俺の口の中で潰れる。
「お前、本当に情けない顔してるよ」
怜央菜が笑いながら背中を押す。
「もっと舐めて、全部なめるの」
沙耶香も加わる。
床に這いずり、手で拾い、口に運ぶ――そんな自分の姿に、胸が焼けるように痛む。顔を上げても、周囲の目が刺すように痛い。笑い声、からかい、指示、罵倒。全部、俺を抉る。
「もう、やめて……」
小さな声を漏らす。けれど、友人たちは笑って答えるだけだ。
「やめる? 無理だろ、お前の立場なら」
一人が言い、もう一人が「もっと楽しませろよ」と肩を叩く。
怜央菜が近づき、俺の髪を掴んで顔を上げさせる。
「見てよ、この情けない顔。こんな奴が一番下なんだよ」
晃司がベルトで軽く肩を叩き、颯馬は手を突き出して俺を押す。全員が俺を取り囲み、動きの自由を奪う。
俺は泣きながら、ただ必死に口を動かす。水を飲み、泥の混ざった食べ物を押し込む。吐きそうになる喉を押さえながら、心の奥で自分を責める。こんなことになるのも、全部俺のせいだ。悪いのは俺だ。
「おい、残さず全部食えよ」
晃司が叫ぶ。
「ほら、こっちも食べろ」
颯馬が小石の混ざった庭の水を差し出す。
怜央菜も笑いながら、俺の手を掴んで強制する。
「情けないな、本当に。誰も助けてくれないのに必死に這いつくばるなんて」
俺の体はもう限界を越えている。汗と涙と泥と吐き気が混じり、全身が痛む。けれど、それでも動くしかない。止まれば、もっと酷いことが待っているのを知っているからだ。
「もう……もう無理……」
小さく呟く声に、笑いが重なる。
「無理? お前はいつだってそうだな。結局、俺たちの言う通りにしか動けない」
晃司が背後から声をかける。
「まだまだだよ。食べろ、這え、見せろ」
颯馬、怜央菜、沙耶香、友人たちが取り囲む。
俺は口を動かし、体を這わせ、全身で屈辱を受け止める。泣き声も、呻き声も、もはや誰のためでもなく、自分を保つためだけの必死な行為だった。
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