テラーノベル
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校門を出てから、遥は一度も振り返らなかった。
振り返る理由なんかない。
自分で終わらせた。
自分で距離を取った。
だから、それでいい。
そう思いながら歩く。
夕方の風は少し冷たくて、制服の裾を揺らした。
気づけば、いつもより歩く速度が速くなっている。
急いで帰らなければ。
遅くなると面倒だから。
家に着く前から、もう頭のどこかで時間を計算している。
信号。
交差点。
見慣れた道。
足は勝手に動く。
なのに。
頭の中だけがうるさかった。
『……分かった』
日下部の声。
苦そうな顔。
何も聞かずに引いた背中。
(だから、なんなんだよ)
舌打ちしたくなる。
あんな顔をされる筋合いはない。
避けたのは自分だ。
勝手に近づいてきたのも向こうだ。
悪いことなんかしてない。
なのに。
胸の奥だけが、妙に重かった。
家の近くまで来たところで、足が止まる。
玄関が見える。
いつもの家。
見慣れたはずの場所。
それなのに。
今日は少しだけ、帰りたくなかった。
理由は分からない。
いや。
分かっている。
考えたくないだけだ。
帰れば、また始まる。
昨日の続き。
今日の続き。
終わっていないもの。
消えていないもの。
遥は小さく息を吐いた。
「……帰るか」
誰に言うでもなく呟く。
逃げる場所なんてない。
玄関のドアを開ける。
その瞬間。
「遅ぇ」
低い声。
心臓が跳ねた。
反射で背筋が固まる。
リビングから出てきた晃司が、冷えた目で遥を見ていた。
「六時間で終わりだろ」
遥は視線を落とす。
「……悪い」
「悪いで済むなら楽だよな」
晃司の後ろ。
ソファに座ったままの沙耶香。
スマホをいじりながら、ちらりと視線だけを向けてくる。
そして。
「へぇ」
聞き慣れた声。
颯馬だった。
笑っている。
嫌な笑い方だった。
「今日は随分機嫌悪そうじゃん」
遥の喉がわずかに動く。
「別に」
「ふーん?」
颯馬が立ち上がる。
近づいてくる。
遥は動かない。
動けない。
颯馬は遥の顔を覗き込んだ。
「なんかあった?」
「……何も」
「へぇ」
笑う。
目だけが笑っていない。
「学校で?」
「……」
「友達と?」
その一言。
遥の肩がわずかに揺れた。
ほんの一瞬。
本当に小さな反応。
でも。
颯馬は見逃さなかった。
「……あ」
笑みが深くなる。
「何その顔」
嫌な汗が背中を伝う。
「へぇ、そうなんだ。面白」
颯馬がくすりと笑う。
「お前さ」
「……」
「なんか隠してる?」
遥は答えない。
答えられない。
ただ。
心臓だけが嫌な音を立て始めていた。
何も知られていない。
まだ。
何も。
そのはずなのに。
なぜか。
颯馬の笑顔が。
何かを見つけた人間の顔に見えてしまって。
遥の指先は、じわじわと冷えていった。
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コメント
1件
うわ、すごく重い……。遥くん、自分で終わらせたっていい聞かせてるのに、日下部くんの「分かった」って言葉が胸に刺さって離れない感じ、すごくリアルだった。家に帰っても逃げ場がなくて、颯馬に一瞬の動揺を見抜かれるラストは本当に怖い。あの「お前さ、なんか隠してる?」が心臓にくる……続きが気になる。ruruhaさんの心理描写、静かなのに鋭くて毎回引き込まれます。